くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アダプション/ある母と娘の記録」

「アダプション ある母と娘の記録」

作られた1975年と、ハンガリーという国柄を考えると相当に斬新な女性映画の傑作だと思いました。しかも、カメラワークとカットのリズムが抜群に上手い上に、的をいた選曲に映画がリズミカルに展開して行きます。前半のほぼクローズアップを多用した長回しの会話劇が、中盤、一気に戸外へ出たかと思うと、フルショットからバストショットに、しかも音楽も軽快なものに変えて、今までの重苦しさからほっと息をつかせる。その後に続く、意味深なラストシーンへのつながりが実に上手い。監督はメーサロシュ・マールタ。

 

時計の音がチクタクと聞こえ、ベッドで目を覚ます主人公カタの場面から映画は幕を開ける。シャワーの湯煙の中裸体を舐めるようにカメラが動き、医師の診断を受ける彼女の場面、健康に問題がないと言われ、妊娠できるかどうか聞いている。すでに40歳を超え、夫とは死別していて、結婚当時は子供を持てる余裕がなかったが、今になって欲しくなったのだと言う。彼女には妻子ある男性ヨーシュカという恋人がいた。

 

場面が変わるとヨーシュカとカフェで話す場面、カメラは延々と二人の会話左右にゆっくりと捉えていく。長回しのカメラが二人の緊張を高める。カタは子供が欲しいというがヨーシュカは、それは家庭を壊すことになるからダメだと断る。一人で育てるというカタの言葉を拒絶するヨーシュカ。

 

自宅に戻ったカタのところに、近所の寄宿舎にいる女学生たちがやってくる。寄宿舎と言っても、両親に捨てられたような問題児ばかりを預かっている施設らしい。学生たちが帰った後、一人の女性アンナが再度やってきて、部屋を使わせて欲しいという。恋人のシャニと会う場所がないのだという彼女に、カタは一旦断る。しかし、後日アンナの友達が来てアンナが両親から疎まれていることなどを話したことから、カタは再度寄宿舎にアンナを訪ねる。

 

しばらくしてアンナは寄宿舎の許可なくカタの家にやってきた。カタはアンナを受け入れ住まわせる。カタが工場から戻ってくるとアンナはシャニとSEXを楽しんでいた。アンナは結婚を望んでいたが未成年で、両親も許さないのだという。誠実な雰囲気のシャニを見たカタは、寄宿舎に行き、結婚の話を前に進められないかと問い詰める。

 

カタはヨーシュカとデートの約束をして待ち合わせ場所に行くが、結局来なかった。ついて行ったアンナは、泣き崩れるカタを優しく抱き寄せる。そして、店を変えて食事しようとアンナの行きつけの店に連れていく。ここまでほとんどクローズアップの長回しで窮屈な映像だったが、一気にフルショットになり川を渡り、軽快な音楽の流れるレストランへ行き、カタの心はどこかほぐれて来る。

 

後日、カタはヨーシュカとデートするが、ヨーシュカは自宅にカタを連れて行き、妻に会わせたりする。一人帰ったカタの家、冒頭の時計の音、深夜ヨーシュカがやってきて二人は抱き合う。ヨーシュカの最後の別れの言葉だったのかもしれない。カタは寄宿舎を変わったアンナを訪ね、結婚を前に進めるためにアンナの両親に会いにいく。そしてシャニを会わせる。

 

両親はシャニに念書を書かせてアンナとの結婚を許してやる。結婚式、来客の姿をカメラは延々と捉えていくが、ところどころで泣く顔を写したり、素直に祝福している雰囲気が見えない。カメラが会場を一周回った後、アンナとシャニのカットになる。シャニはアンナにキスをするかに見えるが、アンナの元を離れていく。寂しい表情のアンナの場面から、カタが養子をもらうために幼い子供たちがいる施設に来ているシーンへ切り替わる。一人の子供を引き取り、勇んで帰りのバスに向かうカタの姿を遠景で捉えて映画は終わる。この養子縁組も決して前向きの展開ではないのかもしれず、中年を迎えたカタが孤独を癒すためにもがく姿で映画は終わった感じです。

 

非常に中身の分厚い作品で、共産圏のハンガリーの国柄、制作年の頃の主人公の年齢設定などを考えると、女性映画とはいえ、重苦しさが伝わって来る。その描写を抜群のカメラワークで描いた作品で、相当なクオリティだったと思います。