くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「風と女と旅鴉」

風と女と旅鴉

これといって見る映画もないので、ちょっと足を延ばして見に行ったのですが、全くこの時代の映画というのは、見ているだけで、目の保養になるほどに画面が美しい。横長のスクリーンの中に配置された人物の位置、木々の場所、セットの構図が芸術品です。確かに、名美術監督川徳道が担当しているセットは、以前シネヌーヴォーでも特集があり、見に行きましたが、息をのむほど素晴らしい。

しかし、それだけでなく、加藤泰のカメラアングルとテンポで見せる職人監督としての娯楽映画のおもしろさも、作品全体をハイレベルな物に仕上げています。

主演は中村錦之助萬屋錦之助)、共演は三国連太郎、この二人の個性がぶつかり、ありきたりの股旅物ですが、エンターテインメントととして一級品になるのだから、なかなかの物です。

地面すれすれの足下から向こうをとらえるカメラアングルから映画が始まる。主演の銀次が仙太郎と出会う場面、いきなり、ふざけあい、意気投合し、その流れで、銀次がこれから帰ろうとする故郷へ行く途中、たまたま村の運ぶ千両箱を運ぶ村人に盗賊と誤解され、その金をほっぽりだして逃げた村人に代わり、金を持って村に行くことになる展開へ進む。

途中で、村人に鉄砲で撃たれ、村へ運び込まれる。そこで、さりげない恋物語が絡み、盗賊団が襲ってきてと、たわいのないストーリーながら、シンプル故に、画面の構図の美しさや、カメラアングルの妙味をゆっくりと楽しむことができる。

ラストは、なるようになって、一人また村を後にする銀次のカットでエンディング。ラストシーンも、横長の右端に銀次を配置し、画面中央には、街道の道をカーブでとらえる画面は、まさに芸術品。しかしおそらく加藤泰監督に、芸術的な意図はなく、職人わざとしてたたき上げられ、身につけた感性が生み出したものだろうと思います。

名だたる名作が目白押しだった1958年当時では全くの凡作だったでしょうが、今見れば、かなりハイレベルな映画であることが納得してしまう一本でした。