くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「砂の女」

kurawan2015-11-26

長い間見たかった一本「砂の女」を見た。監督は勅使河原宏である。なるほど、これは、映像の枠を飛び越えた映像芸術というのにふさわしい傑作だった。原作は安部公房なので、物語はかなりシュールな非条理劇である。その不可思議な世界を、人並み外れた映像美で描く様は、まさに芸術なのである。

一人の男が砂丘を歩いている場面から映画が始まる。極端な超クローズアップで捉える砂の一つ一つ、皮膚にこびりつく粒、生き物のように流れる砂、あたかも、巨大な砂の生き物の中に足を踏み入れたようなオープニングから度肝を抜かれる。彼の名前は仁木、3日の休暇をとって虫の研究にやってきたのだ。

ひとなつこそうな村人が声をかけ、この村の一軒に宿を提供してやると言われ、案内されるままに一軒の家へ。そこは縄梯子で降りないといけない、砂の穴の底にあり、一人の女が住んでいた。

奇怪な言動に怪訝な思いをする仁木だが、なんと夜が明けると縄梯子が取り除かれていた。どうやら砂かき出しの人足として捉えられた仁木は、逃げる術なく、女と生活を共にし始める。

こうして物語は幕をあけるが、絶壁のような砂の壁、うごめくむし、覗き込む村人たちが、尋常の世界からの隔絶を語っていく。

崩れる砂が、襲いかかるように仁木たちに迫るし、クローズアップで人間の汗、砂がまぶされた肌がキラキラ光る。
一度は縄を作り逃げようとするが、砂穴に飲み込まれかけ、助けられる。

三ヶ月が経ち、時間もわからなくなった仁木は、カラスを捕まえるために砂に埋めたカメに水が溜まっていることを発見、毛細現象と判断し、水を蓄える手段として研究を始めるのだ。

一方で、1日ほんのわずか海が見たいと訴えると、村人たちは自分らの前で夫婦の営みをしろという。覗き込む村人が、面をかぶり、村祭りのごとく踊る。

ある夜、女が腹痛をもよおし、村人が見ると、子宮外妊娠らしいからと女を連れ出す。縄梯子が残されていたので、仁木はそれを登るが、結局逃げようとせず、カメの水の研究を続けることにするのだ。
画面は7年の失踪につき失踪宣告が下された書面のアップでエンディング。

クライマックスの太陽のカットを含め、とにかく自然が生き物のごとく不気味である。まるで人間は自然に生かされていると言わんばかりなのだ。物語はかなりシュールだし、カメラにせよ構図にせよ、徹底的に美しい。芸術的な美学に貫かれた作品で、まるで、見事な絵画をじっと見つめているような陶酔感が沸き起こってくる。これが芸術としての映画の描き方なのでしょう。素晴らしいです。