くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「戦火の大地」「道中の点検」「誓いの休暇」

戦火の大地

「戦火の大地」
これはすばらしい傑作でした。メルヘンチックなくらいに叙情的なシーンがちりばめられているにも関わらず、描かれるエピソードがこれでもかというほどに残酷なナチスの姿を描く。その対照的なギャップがクライマックスの村人たちの怒りの爆発に一気に吹き出すというストーリー構成の見事さにうならされてしまいました。

ナチスの将校クルトの愛人となっているロシア人の女のショットから映画が始まります。彼女の夫はロシア兵で戦死したらしいが、終盤でパルチザンの兵の中にいて、彼女がドイツ人の愛人だと告げられて撃ち殺すショッキングなシーンが用意されている。

村長に密告されたパルチザンの隊長の妻オレーナ。任したために村に帰ってきてナチスに捕まる。取り調べの後で部屋を出ると美しい虹がかっている。倒れた電柱との見事な画面の構図に引き込まれてしまう。さらにこの女に食べ物を届けに来た少年が殺され、自宅へ引き取った死体の髪の毛を吹雪の風が揺らすシーンの詩的なこと。

ナチスが侵攻してきたソ連の村の雪景色のシーンが実に美しい。子供たちだけが留守をする家にナチスの兵隊がやってきて、子供たちに次々と銃口を向ける。その向けられるたびに年上の男の子がかばう。最後に鳩時計を売つと、子供たちの顔のアップが細かく編集されてつながれる。子供たちの声のない叫びが聞こえてくるようなシーンに、しばらく息をのんでしまいます。

やがて、パルチザンが村にやってくる前兆として一機の飛行機が空をゆっくりと旋回しチラシを撒く。空を見上げる村人たちのシーンは、ようやく希望が見えてきたという心の光を投影するようです。そして、神の来訪を待ちわびたかのような村人たちの視線がすばらしい。そしてパルチザンが急襲。

捕虜となったナチスの兵隊たちの元に村人たちが群がって集まってくる。ぐんぐんと彼らの姿を移動カメラがとらえるダイナミックなクライマックスが躍動間あふれる見事なシーンです。しかし、すんでのところで一人の女が「1、2分で彼らを楽にしてやってはいけない」と群がる群衆を止める。

やがて、美しい虹が空を覆い。人々は希望の光を持って空を眺める。そしてエンディング。全く、カット編集の見事さといい、芸術的ともいえる構図の繰り返しといい、ドラマティックなストーリーの組立といい、これこそ傑作と呼べる一本でした。

「道中の点検」
こちらもパルチザンを扱った作品ですが、ナチスとの戦闘シーンなども交え娯楽色とサスペンス色が満載の派手な作品でした。

ドイツ軍の捕虜となり一度は寝返った主人公ラザレフは、ふとしたきっかけでパルチザンに投降、祖国ロシアのために戦うことになる。しかし、素直に彼を信じられないパルチザンの仲間たちの視線のなか、苦悩に日々を送りながらも、ナチスが占領する駅舎の爆破という任務に参加することに。

クライマックスは派手な銃撃戦、爆破シーンが展開し、奇しくもナチスの銃弾にラザレフは倒れる。

凱旋するロシア軍のシーンで締めくくられるが、さすがにモスフィルムの資金量を目の当たりにする映像で、船いっぱいに乗せられた捕虜たちが爆破予定の鉄橋の下をくぐるシーンや、クライマックスの駅での銃撃戦のシーン、さらに町いっぱいに凱旋行軍するエンディングのシーンなど圧倒的な物量に目を見張る映像である。

サスペンス的なおもしろさは解説に書かれているほどスリリングには感じられませんでしたが、戦争の悲劇の中で思い悩む一人の男の人間ドラマとしてはなかなかの出来映えだった気がします。

「誓いの休暇」
30年ぶりに見直したロシア映画の名作の一本、評判通りのとっても美しい名編でした。

広大な大地の真ん中にまっすぐに続く一本の道。それは町へ続くたった一本の道なのです。その道を歩く一人の女性。かぶるナレーション。この女性はこの映画の主人公アリョーシャの母なのです。

こうして、少年兵として出生した19歳のアリョーシャの物語が回想形式で始まります。

物語が始まると、激しい戦場のシーン。迫りくる戦車のショットはさすがにソ連映画ならではの迫力満点。塹壕で通信をする主人公アリョーシャは、通信することもできなくなり、一人戦車に追いかけられて逃げ回る。たった一人の兵士を執拗に追いかけてくる戦車のシーンが一種コミカルなほどの緊張感を呼びます。ところが、たまたま手にした対戦車砲を撃つとなんと迫ってきた戦車を破壊、さらに彼方から迫る戦車も破壊してしまう。そしてそのときの功績で家に帰ることを許されたアリョーシャは、とにかく母の待つふるさとへと旅立つ。

途中、足の悪い兵士にであったり、出会った兵士に田舎に石鹸を届けてほしいと頼まれたりする。途中で乗ってきたシューラという少女との恋物語がこの作品の中心の物語になりますが、さりげなくとらえる汽車のシーンなど蒸気に煙る景色のシーンがとにかく美しい。汽車からみえる広大な大地のシーンは一見のどかではあるが、ところどころに破壊された馬車や戦禍の傷跡が見えたりする細やかな演出が目を引きます。

そして、途中の分岐点でアリョーシャはシューラと別れる。別れ際、いい名付けのところに行くといっていたシューラは「いい名付けのところというのは嘘なの」とアリョーシャに告げる。それはアリョーシャを愛しているということなのだが、先を急ぐアリョーシャはシューラのことを思いながらも母の待つ家に急ぐ。オーバーラップでアリョーシャの頭をよぎるシューラとの思い出のシーンがとにかく切ない。

故郷を目の前にして、陸橋が破壊され、やっとの思いで、休暇も終わるぎりぎりにようやく母に会う。大地の真ん中に走る道で出来合う再会のシーンが作品のクライマックスになる。背景に美しい空をとらえた大きなシーンが実に印象的である。

そして、そのまま再びアリョーシャは戦地へ。そして再び戻ることはなかった。

結局、シューラとのことはどうなるのか。隣に住んでいた幼なじみの娘とのことなど、結局、その後がわからないままだが、二度と帰らないであろうと予感させるエンディングはまさに映画的な見事なラストシーンである。

わずかに戦争の悲劇を訴えながら、美しい青春の切ない物語を見事な映像でつづったこの作品のすばらしさは必見に値する名編だと思います。いい映画でした。