くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恐怖の報酬」(クルーゾー版)「プレイタイム」

恐怖の報酬

「恐怖の報酬」(1952年版)
いわずとしれた、アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の名作中の名作である。初めてみたときは、確か自主映画に近い画面だった気がしたし、そのときは、名作とはいえ、長いというイメージだけが残っていた。

しかし、さすがにこれだけの名作を、大阪ステーションシネマの大画面で見るとその真価をまざまざと見せつけられた。とにかく、カメラがものすごくいいのである。

オープニングのゴキブリのアップのシーンはいうまでもないが、それに続く、中央アメリカの町のシーン。ぎらぎらと日差しが照りつけ、それが、ブラインドのような格子をとおして、くっきりとしま模様を作る場面。汗くささが漂ってくるような、食いつくようなカメラワークに、さすがにこの導入部は、すばらしいとはいえ、今の映画のテンポとしては長いと感じてしまう。

しかし、物語が本編になだれ込み、ニトロを積んだトラックが走る場面になると、もう一時も目を離せないほどに緊張感がみなぎってくる。

地面すれすれにとらえる泥だらけのタイヤのシーン。埃まみれのように乾燥した道。周囲を覆う真っ白な石灰岩のような岩肌。彼方に広がる緑の草原さえもが、殺伐と見せるカメラアングル。うねるような道。どれもが、物語のスリリングな展開を助長するように描写される。

そこへ、主人公マリオと助手に乗るジョーの人間ドラマ。極度の緊張で、極端に臆病になっていくかつての悪ジョーの情けなさ。一方で、脳天気に走るもう一方のトラックに乗るルイージたちとの対比。

有名な時速40マイルで、でこぼこを突っ走る前半から、崖でのUターンの場面、道に横たわる岩を爆破するシーン、そして終盤の油の池の中のクライマックスへと、時に、恐ろしいほどのクローズアップを多用したドラマティックなサスペンスのうまさは、全く、職人わざというより芸術的とさえいえるかもしれない。

フッと気がゆるみ、巻きたばこをするジョーの手元に、突然の一陣の風とともに、前を走るトラックが突然の爆発。物語は一気に終盤へなだれ込む脚本のうまさも絶品である。

そして、助手のジョーの足が油の池で車にひかれ、やがて、腐りだして、目的地に着く直前に息を引き取る。しかし、ここでこの映画は終わらない。

2台分の金を受け取り、意気揚々と帰るマリオ。「美しき青木ドナウ」が流れる。マリオを待つ恋人が、ダンスをする。ワルツが盛り上がってくる。カメラは人々の喜びのクローズアップ、車を蛇行させながら走るマリオ、そして、崖の下へ。FIN。これが名作である。何度見てもすばらしいだろうと思える映画である。何度も書きますが、これが名作と呼ばれる映画としての映画だと思います。すばらしい。

蛇足ですが、主人公がマリオ、知人がルイージ、しかも帽子に髭を生やしたルイージ。?これスーパーマリオブラザーズですよね。気のせいでしょうか?


「プレイタイム」
とにかく楽しい。まるでコメディのカーニバルである。色彩のバランスといい、映像のテンポといいとにかく、どんどん画面に引き込まれ、コメディの洪水の中に放り込まれてしまうのである。そこには、筋の通った物語などはなく、それでも、二時間あまり退屈することがないほどに美しい。まさに、ジャック・タチのセンスにおぼれるひとときなのだ。

映画は、まるで近未来都市のような無味乾燥な金属的なグレーの建物の中、看護婦のような二人の女性が歩いてくる。頭の帽子がおもちゃみたいに跳ね上がる。ここは病院?いや、会社?いや、見本市会場。

その建物の中を縦横に歩き回る人々。その中を一人の男が、ある人物とはなすべく追いかけて回る。エレベーターの中はオレンジの色彩で、グレーの画面に際だつ色彩。さりげなくウィンドウのガラスにエッフェル塔凱旋門モン・サン・ミッシェルなどが写り込む。しかし、考えてみれば、物理的におかしい?

やがて、みるみる時間がたつ。夜の、マンションのような部屋をガラス越しにとらえ、サイレント映画のようなコメディ仕立てで演出するシーンは秀逸。やがて、舞台は深夜に開店する巨大な三ツ星レストラン。映画はその中でどんどんエスカレートしていき、どたばた劇のように展開。スラップスティックなコメディへと進んでいく。

いったい何なのだろう。しかし、そんなどたばた劇の中にも、きっちりとした色彩と音の、計算されたユーモアがちりばめられている。

やがて夜が明け、冒頭の男はアメリカに帰る女性にスカーフをおくる。車がまるでメリーゴーラウンドのように回る回る。色とりどりの、そして、さまざまな形の鮮やかな車たちが、遊園地のような音楽に乗せて回るのだ。

そして時は一気に夜になり、ハイウェイを走り去る車。そして暗転エンディング。

本当に、笑いと鮮やかな色彩と音の、ひとときのカーニバルである。パリの喧噪を笑い飛ばしてしまう豪華絢爛な映像マジックの世界に浸る一瞬でした。本当に、癖になる、はまってしまうジャック・タチの世界です。