「ひなぎく」
不思議な映画です。アニメでもないのだが、アニメチックな感覚で描かれるポップでキュートな姉妹の映像。
そこには、これ見よがしなメッセージ映像も見られるし、実験的な色彩処理、テンポのいい音楽が溢れんばかりにスクリーンから迫ってくる。
物語があるわけでもなく、画面の中では、キュートな姉と妹が、所狭しと、走り回り転がり回り、会話を繰り返す。冒頭は、何やら戦争フィルムのような映像、まさに60年代の反戦思想を映し出すような画面で幕を開けたこの作品は、つかみ所がない。
結局、食事のテーブルも踏みにじり、汚し、最後はシャンデリアにブラ下がり、そのまま水に落ちて、すくい上げられ、テーブルを掃除し、寝転がって、画面は再び、戦争シーンのような画面、そしてエンディング。
色調も、色あせているのか、わざとなのかもわからない。これもまた映像表現なのである。
驚くのは、観客に若い女性がたくさんいたこと。これはなんなのだろう?不思議な映画を見たものである。
「ロックンロールミシン」
初々しい。本当に初々しい映画です。監督の行定勲が、今ではこの手の青春映画は作れないと言わしめるほどに、なにもかもがピュアな世界があります。こういう青春、おそらくだれも、遠い昔に忘れているでしょうね。
映画は、主人公賢司がカフェで座っていると、外で二人の男がウィンドウをたたいている。幼友達の凌一とその知り合いのカツオである。賢司は平凡なサラリーマンだが、凌一は自分でインディブランドを立ち上げるべく、カツオと椿と一緒に、洋服を作っている。
賢司が、教えられた凌一の住所に行ってみると、ツタで覆われたアパート。廊下には黒電話があり、突然鳴り出すと、窓の中から女がそれを取り、訳の分からない言葉でまくし立てる。このシュールな乗りがまたいい。
賢司は、凌一の所へ出入りするうちに、今の自分の生活に疑問をもち、会社を辞め、凌一のブランドの展示会を提案し、一緒に企画を進める。しかし、凌一はこのままふつうの流れに乗っていくことに疑問をもち始める。
資金も尽き、凌一はかつての先輩に金を借りたものの、展示会に出品しないことを決め、せっかく作った服をはさみで切る。ほかのメンバーも自分の服をはさみで切る。
賢司は、退職した会社にもう一度戻る。しかし、凌一たちと過ごしてひとときの思い出の写真をさりげなくデスクに張る。テレビでは、不法滞在していた外国人、実は凌一のアパートで外国語でまくし立てていた人々、が逮捕される映像が流れる。凌一のブランドの売れないTシャツをみんなが着ている。
このラストの締め方が実にうまいのが、行定勲監督の才能である。それまで淡々と流れる青春ストーリーが、この最後の数分でちょっとした佳作に仕上がり、切ない思い出として心に残る一本になる。なんか、いい映画、そんな作品でした。