くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「飢餓海峡」「ポンペイ」

飢餓海峡

飢餓海峡
今更いうまでもなく、内田吐夢監督の代表作であり、日本映画屈指の名作である。30数年ぶりに見直したが、3時間あまりある長大な人間ドラマにも関わらず、全く長さを感じない。その迫力に今更ながら、恐ろしいほどの感動を覚えてしまいました。

これが人間ドラマです。人間の心を描くとはこのことなのです。もちろん、水上勉の原作のすばらしさもあるでしょう。しかし、あのドラマを見事に映像化したスタッフ、キャストの力量、特に主演を演じた三国連太郎の強烈な存在感に、この映画の完成はかかったのだと思います。

一見、いかにも悪人面である。しかし、その奥に、極貧状態で子供時代を送った一人の人間の、追いつめられた必死がじわっとでてきて、物語の中で行われる犯罪さえも正当化されてしまう迫力があるのです。

映画は、戦後まもなく、二人の復員兵らしき男がなにやら抱えて、煙の上がり変えた路地から走り出てくるところから始まる。そして、三国連太郎扮する犬飼に汽車の切符を頼み、汽車の中での二人の会話をじっと聞く三国の表情の複雑さ。

そこへ、台風のニュース、青函連絡船の事故のニュース、とかぶり、ドキュメンタリーのようなカメラワークで、三人が船に乗り、事故のどさくさに紛れて下北半島を目指すシーンへと続く。

しかし、下北半島大湊に打ち上げられたのは犬飼一人。彼は、林道列車に乗り、そこで、一人の女杉戸八重と出会う。

こうして、物語はどんどん本編へとなだれ込んでいくが、お茶屋で八重と別れた後は、刑事弓坂の物語が延々と続くのだ。そして、真相に行き着くのが今か今かと思っていると、この八重が東京に行き、物語はあれから10年が立つ。この時間の流れの編集が本当にうまいので、唐突でもなく、適当でもない時の重さを見せつけられるのだから、これはもう内田吐夢監督の力量というほかない。

そして、物語は終盤、今や食品会社で成功した樽見に犬飼の姿を見つけた八重は、早速その樽見を訪ね。そこで、新たな犯罪は勃発、物語は舞鶴に舞台が移っているが、そこから、10年前の物語へさかのぼり、クライマックスへとなだれ込んでいく。

真実を知るものは、実は観客である我々のみである。取調室でそれを語る犬飼だが、刑事は信用しない。この、逆転の演出がすばらしい。つまり、結局犬飼は信じてもらえないのである。

最後に、今や引退した弓坂が、かつての事件で、船を燃やした灰を保管していて、それを犬飼に返し、これがあのときの灰だと言っても誰も信じないことを語って、犬飼の心が大きく揺らぐ。そして、もう一度北海道へ行きたいといい、刑事とともに連絡船に乗るが、船上から身を投げるのである。

全く、迫真の映画である。終始、圧倒的な迫力がスクリーンから迫ってくる。息をもつかせない人間ドラマと呼ぶ表現が正しいかどうか、これが、本物の人間ドラマである。すばらしい。


ポンペイ
ちょっと好みのポール・W・S・アンダーソン監督作品であるので見に行った。
物語は、今まで何度も映像になってきたヴェスヴィオ火山の大爆発によて、火砕流で全て消えてしまったポンペイの物語である。当然、見せ場はクライマックスの大噴火のシーンで、それにかぶって、主人公マイロとローマから来たコルヴス元老院議員率いるローマの役人とのアクションを交えてのシーンが展開する。

いまさら、スペクタクルシーンなどは、CGを使うので、何の工夫もなく、何の変哲もない、いつものような大惨事のシーンが派手に展開する。クライマックスに至るまでに、時折、地震のシーンや予兆を思わせる唸りのシーン、地面の崩落のシーンも出てくるが、これがいまひとつ緊迫感を読んでこないのは、演出力の弱さか。

映画は、ポンペイに起こった大惨事で、焼けて灰の様になった人々の姿を背景にタイトルが流れ、画面が変わると、ケルト民族の氾濫という出来事に始まる。
そこで生きながらえた少年マイロが17年後、地方でグラディエイターをしていたが、それが認められて、ポンペイにつれてこられ、そこで、カッシアという女性と知り合ってのラブストーリーを核にして物語が展開する。お決まりのように、強いグラディエーターアティカスとであったり、カッシアを娶らんとするコルヴスの悪役登場というありきたりのストーリーが流れるが、いかにもありきたりすぎて、かなりストーリーテリングには手を抜いているように見える。

やはり、ポール・W・S・アンダーソン監督の得意は、そのアクションシーンであるらしく、火山弾が降り注ぐ中でのコルヴスとマイロの対決は、なかなか面白い。

結局、カッシアとマイロが逃げるクライマックスだが、火砕流が迫る中、史実に忠実に、住民全員が死ぬというラストシーンで悲劇のエンディングとなる。

昨日見た「ノア 約束の舟」に比べると、同様のスペクタクル映画であるにもかかわらず、その描き方がまったく違い、脚本のポイントも一方が人間ドラマ重視、一方がアクション重視という組み立ての違いもよくわかる。まぁ、この「ポンペイ」は普通のアクションスペクタクルで、CGあってこその一本といわざるを得ない作品でした。