「渡り鳥いつ帰る」
名匠久松静児監督の代表作と言うだけあって、見事な一本。
昭和27年頃、鳩の街という遊郭街に出入りする女たちの姿を通して、入れ替わり立ち替わり様々な人間模様を描いていくのだが、一つのエピソードに次のエピソードがかぶり、さらに次の展開へ流れるストーリーに、次のエピソードがかぶってくる。
そのオーバーラップするストーリー展開が見事で、人情味あふれる暖かいドラマが展開する様は実に絶品の味わいである。
オールスターキャストで、男女入り乱れての演技合戦のすごさ、それぞれの登場人物の見事な演じ分け、キャラクター演出の巧みさに脚本のうまさもさることながら、演技を引き出していく久松静児監督の演出がさえ渡る。
ゆっくりと鳩の街にカメラが入っていく導入部から、やがて、カメラがパンして町並みから遠ざかっていくエンディングまで、さりげなく外の町並みや、それぞれの人物の故郷の姿、出入りする客たちの事情まで織り込んでくる。
これが、名作と言わなくてどうするのかと呼べるほどの完成度、そして、クライマックスの横に広がる橋のイメージが見事な構図で作品を終盤へ引き込んでいく、映像の演出も息をのむからすごい。本当に、見応え十分な一本だった。
「鬼の棲む館」
谷崎潤一郎原作、三隅研次監督の名作である。宮川一夫のカメラの美しさも目を見張るが、勝新太郎の圧倒的な迫力にも目を奪われるし、そんな迫力に物怖じするわけでもなく堂々と対する新珠三千代、高峰秀子、佐藤慶の演技力にも、頭が下がるのだ。
映画は、山深い森を進む、いかにも高貴な女性一人のシーンから幕を開ける。タイトルが終わると、その女は、とあるお堂へ。白拍子で魔性の女愛染と暮らす、今や盗人となった夫太郎のところを訪ねた妻の楓の場面に移る。
愛人に狂った夫を取り戻すためにやってきた楓、楓と愛染の鬼気迫る演技合戦の中、一人の高僧が立ち寄る。
一時は、その法力にたじろいだ太郎だが、愛染はその高僧の俗世時代の知り合いで、その色香で高僧に体を与えてしまう。高僧は自害するが、太郎は、愛染を斬り殺し、高僧の意志を継いで出家して去るシーンでエンディング
赤や黄色、様々な色合いの着物や、寂れた堂の中の色と重ね合わせるカメラが実に美しい。
フルショットからクローズアップのカットを繰り返す、緊迫感あふれる映像演出もさえ渡り、まさに三隅研次の手腕が光る一本、なかなかの名作でした。