くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「喰い女 クイメ」「イントゥ・ザ・ストーム」「バルフィ!

kurawan2014-08-26

「喰女 クイメ」
三池崇史監督作品なので、かなり期待していたのだが、何とも間延びした、テンポの悪い映画だった。94分ほどしかないのに、やたら長く感じる。それは明らかに、物語構成の悪さによる脚本の弱さである。

最大の欠点が、登場人物の情念が全く描けていないことである。従って、ストーリーがいつまでたっても、深い深淵のそこに沈んでいかない。結果、「四谷怪談」をモチーフにした物語が、ぞくぞくっと浮かび上がってこないのである。

映画は主人公長谷川が、恋人の美雪と体をあわせているシーンから始まる。舞台ではこの二人が
四谷怪談」の伊右衛門とお岩を演じることになっていて、その稽古シーンがかぶさる。

どうやらこの長谷川は、女好きで、新人女優莉緒にモーションをかけたり、美雪のマネージャーにまで迫る。そんな姿に嫉妬した美雪が、やがて狂っていく様が「四谷怪談」にかぶるという展開のはずが、美雪が鬼気迫っていく迫力が見えてこないのである。

そのために、まるで唐突に長谷川に恨み辛みが募ったかに見え、自らの体を傷つけ、薬を飲み、という終盤の展開になる。そして、その恨みが、情念となって長谷川に迫るかの演出のはずが、いかにも、とってつけた感がある。

恨みの情念で、長谷川が事故で、首が飛ぶというラストシーンから、美雪が何事もなかったかのように、その首をメイク台の下で足蹴にするエンディングまで、全く引き込まれない。

市川海老蔵もよくない。

とにかく、だるい。なにを目指したのかわからない一本だった。


「イントゥ・ザ・ストーム」
普通のディザスター映画である。驚くような演出もないし、胸を打つ人間ドラマもない。ただ、巨大な竜巻が人々を襲う姿を描くだけの何の変哲もない一本。

監督はスティーブン・クォーレという人だが、「ファイナル・デッドコースター」を手がけただけあって、オープニングのシーンは、いかにもという映像である。そして、タイトルの後に、ある卒業を控えた学校の学生二人を一応中心に、その父親の話から、兄弟の兄があこがれの女性と廃工場にいったために、おそってきた竜巻に閉じこめられるエピソードと、竜巻を追いかける、装甲車のような車に乗る集団の姿を中心に描いていく。

かつてあった「ツイスター」とほぼ同様の物語構成で、特に変わったものもみられない。

90分足らずの、B級映画的な一本で、たわいのないぶん、気楽にみれたかなと思える映画でした。


「バルフィー!人生に唄えば」
ヨーロッパ映画の色合いを持ち、ファンタジックで、明るいインド映画の魅力と、アメリカンコメディの陽気さ、そして、あまりにも切ないラブストーリーを併せ持った傑作に出会いました。

インド映画らしい派手なダンスシーンは登場しませんが、2時間半という長尺を一気に見せ、何ともいえない切ない感動に包み込まれてしまいます。笑いがちりばめられているのに、ハンカチをはなせないクライマックスは、これが映画だとうならせるほどのすばらしさ。アカデミー賞外国語映画賞インド代表の貫禄も持つ、とってもすてきな映画でした。

冒頭から歌が流れ、これから始まる映画の説明が歌われます。そして、タイトル。

とある施設で一人の老人が、おもむろにカメラを取り出し、三脚にセットし、窓際に自らたってポーズを取る。シャッターが落ちたとたんその老人は床に倒れる。

一人の老婦人が生徒たちに手話を教えている。そこにかかってきた電話。この老婦人シュルティーの語りから物語が始まります。

「死ぬ前に写真をください。その約束を果たしたわね、バルフィ」

この幕開けからとってもすてきなのです。バルフィがいる施設を横にとらえ、手前にアコーデオンなどを奏でる三人の楽士たちを配した構図。

物語は約30年前に戻り、婚約したばかりのシュルティにバルフィーが出会い、一目惚れしたバルフィがシュルティのアピールするお話が展開。

シュルティがバルフィを訪ね、警官がバルフィを追いかける下りのエピソード。

バルフィは耳が聞こえず、しゃべらないので、まるでサイレント映画のように映像が展開。時折、キートンチャップリンの映画の一齣のようなシーンもオマージュされます。

そしてお話は、なぜバルフィが警察に追われているのかへと流れていき、もう一人のヒロインジルミルのエピソードへつながっていく。
ジルミルはバルフィの幼なじみで、自閉症、しかし家は地元の実力者である。バルフィはシュルティとの失恋の後、落ち込み、さらに父親が倒れ、金に困り、銀行強盗や誘拐を友達と考えるが、どれもコミカルな失敗になっていく。

その課程で、ジルミルが本当に誘拐されるという物語がかぶり、どんどんお話が膨らんでくるのである。そして、ジルミルが行方不明になり、バルフィが見つけて、二人で暮らし始める展開から、またストーリーは若い二人のラブストーリーへ。

そして、しばらくして、バルフィはシュルティと再会、三人のあまりにも切ないクライマックスへと進んでいく。

”ほほえみの家”にいるらしいとバルフィがシュルティと訪ね、見つからず、仕方なく帰りかけたところへ、後ろからジルミルが叫ぶ。耳の聞こえないバルフィは気がつかないが、シュルティが気がついて、バルフィに知らせたら、彼が自分から去ることを知った上で、複雑な表情でバルフィに声をかけ、バルフィはジルミルの元へ走る。

そしてシュルティは一人になり、物語は現在へ進み、冒頭の物語になって、バルフィは息を引き取り、傍らにジルミルが添い寝する。

非常に丁寧に組み立てられた物語構成と、懐かしい映画へのオマージュ、サイレント映画のような装いに、ヨーロッパ映画のムード、そしてもちろんインド映画らしい明るさもふんだんに取り入れられたかなりの秀作でした。とってもいい映画に出会った気がします。