「東京の休日
とにかく楽しい。しかも、映画史をを飾った豪華な大スターが惜しげもなく、ちらちらとでてくるのだから、ため息がでる思いに浸ることができる。監督は山本嘉次郎である。
物語は全くたわいのないもので、アメリカからツアーでやってきた、在米日本人、中でも成功したファッションデザイナーを主人公に、彼女を取り巻いていく様々な人々を通じ、陽気なお話が展開。
歌があり、ダンスがあり、レビューがあり、なにもかもが、映画が娯楽であった時代の息吹がスクリーンからあふれてくる展開がとってもいいのです。
李香蘭が歌う、越路吹雪が歌う、そのほか、うっとりするレトロな世界は最高の贅沢である。
残念なのが、色落ちしていてほとんどモノクロ状態。でも、こんな映画、是非、色彩を再現してほしいと思います。
「路傍の石」(久松静児監督版)
ご存じ山本有三原作の名作文学の三度目の映画化、監督は久松静児。
やはり久松監督の画面は美しい。オープニング、遠景で、彼方を走る汽車のショットから、運河の脇に立つ旧家のたたずまい、長屋の庶民的な画面、それぞれが、明治末期の物語の舞台をみごととにスクリーンに再現する。
お話は、少年時代の主人公五一が、やがて母の死、そして東京へ行くまでが描かれる。
今となっては、再現できない、さりげない古き日本の姿を見るだけでも値打ちのある映画ですが、さすがに安定した俳優たちの演技に、クオリティの高い一本として楽しむことができました。
こういう映画は大切にしていかないといけません。
「女ごころ」
ちょっとした人間ドラマでした。監督は丸山誠治です。
映画は、中年の夫婦のお話で、ふとした夫の浮気を発見した妻が、夫との別居に踏み切るところから本編へ流れていきます。
夫の浮気相手が、いかにも打算的で、遊び好きな女としてステロタイプで描写され、一方の原節子扮する妻が、ほぼ完璧に近い存在感で登場すると、確かに、間になる夫としては、つい出来心が生まれても仕方ないとさえ思える展開を生み出す。
湿っぽいものもなにもなく、ひたすら、浮気に興じる夫ですが、一方の二人の女は、そんな男を見下しているのかと思えるほどに、手玉に取るような振る舞いを見せる。
物語だけを見ると、平凡な浮気ドラマですが、その描き方は、緻密で、子供や妻の周りの気のいい人物たち、さらに、夫の教え子の生徒たちや、義理の弟とと懇ろになる友人などのキャラクターが、夫婦の物語を見事に浮かび上がらせていくあたりは絶品です。
結局、ころがされたのは夫で、もとの姿に戻ってハッピーエンドなのですが、ストーリーの好みはともかく、ちょっとした逸品という感じの映画でした。、
「慕情の人」
これがなかなかの秀作。監督は丸山誠治
一見、ドロドロした恋愛嫉妬ドラマのごとき展開ですが、ワイプなどを使って、軽いタッチで演出していく丸山誠治の力量が光る。
しかも、原節子が、揺れる女を緊迫の演技で見せるあたり、あまりお目にかかれない役柄に目を引かれるのです。
未亡人で、スポーツ店の社長の立場の主人公が、店の、信頼する支配人に心が揺れてくる。そこに、小生意気で小悪魔的な、亡き夫の妹が、嘘や策謀を繰り返して、かき回してくる展開に、どんどんのめり込んでいくのだが、ラストはさらりと粋にハッピーエンドを迎える。
現代、リメイクしても、遜色がないほどの見事なストーリー構成と、組み立ての妙味を堪能できる作品でした。