くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「盲獣」「清作の妻」「仕立て屋の恋」

kurawan2014-09-16

「盲獣」
乱歩の映画化作品の中で傑作と呼ばれている一本。さすがに白坂依志夫脚本で、増村保造が演出をすると、恐ろしいほどに情感の漂う世界がスクリーンに沸き上がってくる。

体を縛られた裸体を写真に撮る写真家のモデルになった女が、目の見えない彫刻家に誘拐され、倉庫の中に監禁される。倉庫の中には、目、花、口、手など体の部位が所狭しと作られた壁に囲まれた部屋。まさにおどろおどろしい江戸川乱歩の世界である。

なめるようなカメラワーク、極端に女をとらえるクローズアップなど、息苦しくなるような演出が増村保造によって施され、スクリーンから臭いたつようなムードが全編を覆っていく。

ここまで強烈になると、もう、情念とか愛憎とかいう言葉には表現できないほどの、毒々しさが見えてくる。

いかにもキワモノ作品なのに、主演は船越英二となるのだから、全く極めきった際物映画という印象の一本、この迫力は増村でないと出ない、それを実感する作品でした。


「清作の妻」
昨年1月にみたばかりだが、思わず見に行ってしまった増村保造監督の代表作。

鬼気迫る形相の若尾文子のすばらしい演技は何度みても驚嘆に値する。全編にみなぎるような毒々しいまでの情念の世界は、冒頭の風呂場での老人の死のシーンから息をもつかせずにラストシーンまで流れていく。

すばらしい映画は何度見ても飽きがこない。それを証明する一本だった。


仕立て屋の恋
パトリス・ルコント監督作品で、見逃している一本。美しいカメラ映像はいうまでもなく、巧みに色彩を配置した構図も本当に美しい。

しかし、映像の美しさをさておいて、とにかく、切ない、いや切なすぎるほどにつらいラブストーリーでした。

髪結いの亭主」もつらい一本ですが、こちらは、さらに輪をかけたほどに純粋なラブストーリーが、本当に切ないラストシーンを生み出します。

映画は、公園で一人の少女が殺された場面から始まる。近くにすむ前科のある仕立屋イールに目を付けた刑事は、ことあるごとに彼に近づく。

イールは禿頭で、いつも窓越しに見える、向かいのアパートの女性アリスに恋をしている。ブラウンの壁と煉瓦の模様、鏡のように映る窓ガラス、反射する鏡、配置されたガラス食器の色合いなど、実に美しい画面が写される。

イールの視線に気がついたアリスは、イールの部屋の前で、真っ赤なトマトをぶち広げてみたりして、イールの本心を探ろうとする。彼女にはエミールという恋人がいて、結婚を申し込まれている。しかし、彼は実は冒頭の少女殺人の犯人であるらしいことが見えてくる。そして、殺人が行われた日、イールはエミールのことを目撃していたのである。

しかし、アリスに恋をするイールは、自分に嫌疑が掛かっているのに、アリスを守るために目撃したことを刑事に話さない。そして、アリスが共犯として捕まるのを防ぐために、自分と一緒に海外に逃げようと提案する。

しかし、約束の日、駅にアリスは来なかった。家に戻ると、刑事が待っていて、アリスがイールのクロゼットから、被害者の少女の鞄を見つけたというのだ。当然、嘘なのだが、それをイールは黙って受け入れ、「責めるつもりはない。ただ切ないだけだ」とアリスにつぶやき、逃げる。

しかし、屋根を逃げる途中で、屋根から落下、死んでしまう。

まもなく、刑事にイールからお手紙が届く。「この手紙が届く頃には私とアリスは海外に行く。それは共犯としてのアリスを守るためである」という手紙と、エミールが犯人だとする証拠のコートが添えてある。じっと見つめる刑事のカットでエンディング。

イールが屋根から落ちる途中で、アリスが窓際にたっている姿をとらえるカットが何とも切ない。

純粋な恋を貫くために、すべてを覆い隠したイールのひたむきな想いは、ただ、プラトニックなラストーリーながら、何ともやるせない寂しさを覚える。美しい映像とともにつづられる物語が、さらにその純粋さに彩りを添え、さらに切なさを盛り上げるのだから、まさに名作と呼べる一本だったと思います。