くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「女体(じょたい)」「フットノート」「この庭に死す」

kurawan2014-09-19

「女体(じょたい)」
増村保造という人はどこか精神をやんでいるのではないだろうか、そんな疑問がわいてくるほどの強烈な映画だった。

まるで色情狂の様に次々と男を誘惑する小悪魔として、徹底的な描写で主人公ミチを描ききる。中盤から後半にかけては、みている私たちがこの主人公に敵意を抱き、死んでしまえと望んでいるのだ。これほどステロタイプ化させて人物を描く。ある意味これが映画という虚構の世界なのかもしれない。その意味で、この作品は傑作と呼んでもいいかもしれない。

映画は主人公ミチが、とある大学の応接で突然体をくねらせて踊るシーンに始まる。理事長の秘書がやってきて、実は理事長の息子にレイプされた、と訴えにきたのだ。

こうして、異様な演出で始まるこの作品。主人公はことあるごとに恥ずかしげもなく裸体を見せ、男を挑発し、誘惑し、ものにしていくのだ。そこには理性とか節度とか、当然貞節などは存在しない。本能のままに男をものにしていく。

しかし、この行動を逆手にみれば、この女は、人一倍、いや、異常なくらいの孤独な人間なのかもしれない。この、天才と気狂いは紙一重という危うさで展開する物語こそが、この映画の真骨頂なのかもしれない。

そして、そんな主人公にいとも簡単に引き込まれてしまう男たち。まさにバカである。と、客観的にみている私たちは思う。そして、極限に達した男は彼女を刺し殺そうとするが、結局できない。

男は逃げるように出ていくだけ。そして、一人残った主人公は酒を飲み、風呂に入ろうとするが、つまずいてガス栓が抜けたことに気がつかず、そのまま風呂場で死んでしまうのだ。これが唯一の観客にとっての救いかもしれない。

強烈すぎる。これが増村保造の視点であるのである。まいった。


「フットノート」
なるほど、カンヌの脚本賞を取っただけのことはある、ちょっとした一本でした。イスラエルの映画です。

大学の教授の親子である父エリエゼル・シュコルニクと息子ウリエル・シュコルニク。この日も、息子ウリエルが何かの賞を取り、その受賞式にエリエゼルも出席している。父エリエゼルは何十年もの間研究をしてきたが、すんでのところで、別の人に栄誉をとられたりして、どこ家か運がない。一方の、ウリエルは誰もが認める活躍をしているらしい。

その様子が、「シュコルニク教授最悪の日」などというテロップでコミカルに語られるのが導入部である。

ある日、そんなエリエゼルのところに、電話で、名誉あるイスラエル賞の受賞が決まったと通知がくる。ようやく認められ、落ち着いているものの、喜びを隠せないエリエゼルだが、一方のウリエルには審査員から別の通知が。実は、本当はウリエルの受賞で、間違ってエリエゼルに連絡してしまったから、どうするか考えたいということ。

こうして物語は本編へ進む。何とか父の名誉のために、このまま父に受賞させたいウリエルは、審査委員長で、かつて父の研究を横取りしたような発表で名誉を得た人物に詰め寄り、自分が審査講評を書き、委員長が諸目宇する事でこのまま父を受賞者にすることに同意させるのである。

ところが、父エリエゼルは、新聞記者に、息子ウリエルの研究は最悪だという内容のことを語ってしまう。複雑な心境のウリエルは、母にだけ真相を告げる。

ところが、エリエゼルは、テレビの出演リハーサルの席で、自分の紹介のテロップをみているうちに、ふとした単語から、自分の受賞に疑問を持ち、自宅で、過去の文献やウリエルの著書などから、審査講評を書いたのがウリエルで、審査委員長がかつての確執のある男であることを突き止める。果たして、真相を知ったのかは何気ないフラッシュバックで判断するしかない映像だが、そのまま、受賞式の場面にすすみ、さて、受賞式本番の始まる直前で暗転エンディングとなる。

果たしてエリエゼルは?ウリエルは?様々な予感を残して終わるエンディングも見事。

細かいフラッシュバックや、カットの数々が、実に巧妙にストーリーをミステリアスに進めていき、何気ないコミカルなシーンが物語にテンポを生み出していく。ほとんど表情を見せないエリエゼルたちの無機質な姿もまたおもしろい。

よく書き込まれた脚本と演技力、テンポよい演出がこの作品をこれほどの秀作に仕上げたという感じの一本で、なかなかのものでした。


「この庭に死す」
ルイス・ブニュエルの怪作というだけあって、ブニュエル作品だといわれなければ、その辺の普通のB級映画である。

とってつけたようなストーリー展開が、かなり適当でいき当たりばったり。

物語は、南米でダイヤモンドを掘っている人たちのシーンに始まり、それが政府の命令で中止に、不満のある人々は地域の軍の駐留地へ押し掛ける。そこに、よそもののシャークという男が登場し、酒場には口のきけない娘とその父親、さらにジャングルの奥地へ布教に行くつもりの神父がいる。近くの女郎屋には女主人がいて、なぜか彼らが追われることになり、ジャングルに逃げ込んでサバイバルストーリーへと流れていく。

いよいよ、みんな死んでしまうかと思われたが、墜落した旅客機がみつかり、食料を得るが、口の利けない娘の父親がおかしくなり、みんなを銃撃。結局シャークと口の利けない娘だけ生き残り、ゴムボートに乗って湖を進んでエンディング。

ついてきた神父は、旅客機にあった宝石を独り占めしようとするし、筏を作るはずが、いつの間にかゴムボートがある。まぁ、かなり適当なストーリー展開だが、ブニュエルの作品の一本となれば、怪作としてみておくべき作品?だったかもしれない。