くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「人の望みの喜びよ」「シーヴァス」

kurawan2015-12-18

「人の望みの喜びよ」
切ないような、不思議なリズムを持った作品。それほどの秀作とまではいかないけれど、映像のリズム感に、この監督独特の感性をうかがわせてくれました。監督は杉田真一です。

水中から空を見上げるカメラから映画が始まり、タイトルがかぶります。画面が変わると、地震で倒壊した家屋のそばで佇む一人の少女春菜。一瞬で両親を亡くし、弟翔太と一緒に親戚に引き取られることになる。

翔太には両親の死を隠しておこうということになったものの、日々、翔太は両親への思いを募らせ、そんな姿を見る春菜は、嘘をついていることに耐えられなくなっていく。

ある夜、そこの家の息子が、自分がないがしろにされていると両親にあたり、その母も、春菜たちの面倒に疲れた風を見せる。それを見た春菜たちは、二人きりで、家を出る。そして、たどり着いた海の見える丘で、春菜は翔太に全てを話し、両親の写真を持って、もう一度会いたいと叫ぶ。写真が風に舞い、春菜は海に落ちる。しかし浜辺に打ち上げられ、そこへ駆け寄る翔太、ゆっくり目を開ける春菜のシーンでエンディング。

春菜たちが延々と歩いて向こうに進んでいくクライマックスの絶妙の長さと間、海に落ちて、水の中から空を見上げるカメラの微妙な長さが、実に作品の中で光っている。美しさと切なさが入り混じったこの時間の演出が実言うまい。終盤まではありきたりなストーリー展開だが、春菜が時折見せる、両親を助けられなかった悲しさと、翔太への罪悪感が見事に映像に表現されている。この終盤の二人の心理描写に、この作品のクオリティを一気に決定付けた気がします。

ちょっとした一本だった気がします。


「シーヴァス」
ベネチア映画祭で審査員特別賞を受賞した作品で、優れた映画だというのはわかるのですが、寄りと手持ちカメラを中心とした映像に、終盤疲れてしまって、眠くなってしまいました。監督はトルコのカアン・ミュジデジという人です。

主人公の少年アスランが学校で友達と遊んでいるシーンから映画が始まる。村長の息子オスマンに異常な敵対心を持ち、同級生の美少女アイシェに密かに恋心を抱いている。クラスで白雪姫の劇をすることになり、オスマンが王子にアイシェが白雪姫になり、嫉妬心がさらに高ぶる。

ある日、家の老馬を捨てに行かされたアスランは、老馬に石をぶつけたため、馬は倒れてしまう。ところが、死んだと思って、兄と戻ってみると、馬はいない。その日、アスラン闘犬をしている現場に出くわし、オスマンの飼い犬ホゾに負けて傷ついたシーヴァスという犬に出会う。死んだと思っていたが、生きていて、アスランはその犬を飼うことにする。

時折、トルコ東部の広大な草原を捉える映像が美しい。しかし、ほとんどカメラは人物に寄り添い、しかも、手持ちで捉える揺れる画面が、結構厳しい。

アスランは、オスマン闘犬ホゾに勝たせるべく、シーヴァスを訓練する。というように解説に書かれているが、どちらかというと、常にシーヴァスに寄り添うアスランの姿が映像としては中心で、兄や父に売られてしまいそうになるシーヴァスを必死で引き止めたりうる下りは、少年と犬の絆の物語である感じである。

闘犬場で、シーヴァスの勇姿を見せ、羨ましがられる中、車で移動していくシーンでエンディング。というか、この辺りで眠気がピークになり、気がつくとエンドクレジットだった感じである。

地味だが、少年と犬の心の絆を掘り下げたような食いいるようなカメラワークが独特の一本で、ドラマ作りの迫力といい、なかなかの逸品の映画だったと思います。ただ、少々眠くなってしまったのは不覚でした。