くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「暁の追跡」「残穢 住んではいけない部屋」

kurawan2016-02-05

「暁の追跡」
新藤兼人脚本、市川崑監督の警察ドラマ。市川崑監督作品としてはちょっと異色な色合いがある。

製作年は1950年で、新橋の本物の交番を使って、ドキュメンタリータッチで描かれるが、独特の構図やカメラワークは見られない。

主人公石川が、たまたま同僚の勤務を代わった時に、一人の現行犯逮捕された男が連れてこられる。しかし、ちょっと気を許した隙に逃げ、その男を石川が追っていくが、その男は列車に引かれ死んでしまう。

自分が追いかけたことで、命を奪ったと悔やむ石川の姿が前半、さらにその男の残された家族の悲劇から、男の妹が殺害される事件が起こり、犯罪組織を逮捕するべく、石川らを含め一丸となるクライマックスへ流れる。

途中、同僚の不祥事で、クビになる仲間や、当時の就職難の世相、新橋近辺の東京の街並みなど、ドキュメンタリーの様相が表に出るヒューマンドラマという感じである。

とは言っても、映画としてはそれほど優れた出来栄えに見えないし、市川崑作品としては中レベルの映画だったかと思う。


残穢 住んではいけない部屋」
久しぶりにホラー映画の傑作のであったかもしれない。つまり、純粋にスクリーンに釘付けになり、素直に怖かった。確かに小野不由美の小説というのは、こういう滲み出てくるような恐怖を生み出すのを得意とするし、どこか西洋的な視点が見え隠れする。今回もいわゆる、日本的な恨みつらみではなく、恨みを向けるターゲットは、自分をいまの状態にした張本人ではなく、関わってきたものに対して無差別に向けられている。つまり「呪怨」と同じなのだ。ある意味、世の中全ては怖いという現代の世界を象徴しているのかもしれない。監督は中村義洋である。

映画は、大学で建築を学ぶ久保という女子大生が、日本中の怪談話を記事にしているホラー作家の所に体験談送るエピソードから始まる。プロローグとして、河童の幽霊を見る少年のエピソードも語られ、物語は、久保という女性の体験の原因を探査するうちに、そのマンションの過去へ遡っていく展開となる。そして、そこにどんどん見えてくる過去のおぞましい事件から、さらに遡ると、実は、この物語に関わること、話すこと、聞くこと自体が穢れに触れることになり、強いては、自分が不幸になってしまうというのである。

そして、さかのぼる過程で、冒頭の河童のエピソードも実は全て同じ所に端を発することがわかり、さらに、このホラー作家の新居にも不気味な影が現れる。

もちろん、クライマックスは、ビジュアルなショッキングシーンを作り出さざるをえないために、俗っぽいエンディングになるのだが、おそらく原作はかなり怖いだろうと想像できる。

久保さんがもうこれ以上遡るのはやめようといい、エピローグでホラー作家のつぶやきで、聞き取りに回った人々は平穏に暮らしていると語られるが、実はホラー作家の編集室では、不気味な影が現れ、無事だったはずのアパートの住民が恐怖の体験をし、お寺の住職は保管していた掛け軸を出して、その女性の姿が不気味に変わったか変わらなかったかで暗転エンディングとなる。

確かに、探求して行って、最後の場所にたどり着き、ことの真相がホラー作家によって説明されるくだりは、もう少し鮮やかさがあっても良かったと思うが、全体にとにかく、画面から目を離せないのだから、ホラー映画としてはこれで大成功なのだと思います。作品としては傑作かはこの場合別の話かと私は思います。純粋に怖かったです。