くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「複製された男」

kurawan2014-07-25

久しぶりに、かなりなシュールな映画を見ました。
煙るような町、どこか、黄色がかっていて、映像の色調も少し、色合いをそぎ落としたようなカラーで描かれる。

映画はおなかの大きい一人の全裸の女性がベッドでこちらを振り返っているカットから始まる。続いてこの町に住む一人の男、歴史の教師アダムの自宅のシーン、恋人のメアリーとの情事、ふつうの日常生活。学校での講義のシーンが描かれる。合間に、不気味な蜘蛛の映像が映される。

ある日、同僚から映画の話をされ、一本のDVDをみるのだが、なんとその中の端役のボーイが自分そっくりなのを発見するのです。そして、その俳優の名前を調べ、別の作品を見てみると全く自分と瓜二つ。つまり、ここでもう、観客は騙されてしまう。アダムとアンソニーという二人の存在に翻弄されているのである。

そこで、その男の事務所に行くと、管理人にその俳優と間違われ、一通の封書が届いていると渡される。それをみて、本名がアンソニーだと知り、住所をたどり、電話をしてみると、出たのは彼の妊娠している奥さんヘレン。瓜二つの声に最初は夫だと間違われるしまつ。つまり、ヘレンは本当に、夫からの電話を取ったのです。ここにも巧妙な二人の人物がいるかという錯覚を生むようになっている。さらにヘレンが夫の浮気を非難するような言葉がほんの一瞬出てくる。そこにこの作品のキーワードが存在するのではないか。

電話でアンソニーに連絡をし、最初は不審がられるも何度目かで、会うことになる。一方ヘレンは夫が話す相手を不審に思い、本当にその男がいるのか学校へ見に行く。そして夫に瓜二つのアダムを見つける。ここは、つまりはヘレンが愛する今の夫アンソニー(実はアダム)を見初める場面なのではないだろうか。つまり、過去の回想シーンだと考えると、つじつまが合い始める気がする。

時々、ビルと同じくらいの大きさの巨大な蜘蛛がいる映像や、アンソニーがいかがわしい部屋に行くと、全裸の美女が、蜘蛛と戯れる場面などが挿入されるが、その意味は最初は分からない。しかし、この蜘蛛こそが、妻が夫に対して持つ毒を帯びた思いの象徴ではないでしょうか?

アンソニーは、アダムに、自分と入れ替わり、アダムの恋人メアリーと一夜をすごさせてくれたら、自分は消えると約束し、服を着替え、アンソニーはメアリーとデートする。このあたりがいわゆるキーになるシーンで、つまりアンソニーは、不倫をしているのです。いや、アダムが不倫をしているのか?つまりアダム=アンソニーという一人の男、妻が妊娠している男が、不倫をし愛人メアリーと付き合うが、そこに蜘蛛のような化け物的なイメージの妻の存在が覆いかぶさっていくのではないでしょうか。

一方のアダムも、アンソニーの家に行き、ヘレンと過ごす。ここで、二人はひとつになり始めるのです。

しかし、ことの途中でメアリーはアンソニーだと気がつき、飛び出し、二人で車の中で言い争いをするうち、交通事故をおこし、死んでしまう。これが、つまりは不倫の終焉。

一方のヘレンは、薄々気がついていたが、優しくなった夫をアダムと知りながら体をあわせる。蜘蛛となった妻の毒牙により、愛人は消えてしまい、再び自分の元に戻った。

アンソニーになったアダムは、かつての親展の封書をみつけ、それを開けると、そこに鍵が。それは、このマンションにはいるとき、管理人との会話で、あのいかがわしい部屋に行く鍵だと、理解する。

ヘレンがシャワーを浴び、アダムの前を通り過ぎる。アダムはその鍵で、出かけることを決意し、ヘレンの寝室に行くと、なんと巨大な蜘蛛がいて、暗転エンディング。つまり、出かけるというのは、再び不倫をしようと愛人の元に行くことを意味し、蜘蛛に変わって襲いかからんとする妻のイメージがラストシーンとなっている。

私の解釈であるが、つまり、アダムは、アンソニーが作り出した、いや逆かもしれないが、複製された男であり、妊娠した妻のある一人の男が、苦悩の中で愛人を作り、思い悩み、妄想の中で恐怖の象徴として妻を蜘蛛の化け物のごとくおもい始める。しかし、やがて、妻の元に戻ってきて、と思いきや、展開は輪廻のごとく繰り返し、鍵というアイテムで、再び不倫をしよとしたら、妻が再び襲いかかる。つまり、繰り返しの物語ではないでしょうか?

ある意味、未公開映画的なレイトショーでみるような作品に思えるのですが、実は張り巡らされた伏線を読み解いて、ひとつの結論を導き出す心理ミステリーの秀作と呼べるのかもしれません。しかし、このシュールなムードが不気味に癖になるミステリーで、その謎を読むおもしろさがこの映画の魅力でしょうか。