「ANNIE アニー」(2014年版)
1982年版の映画もそれほど印象が残っていないが、今回の映画化版は、さらに良くなかった気がします。
第一、カメラが抜群に良くない。細かいカットを繰り返し、めまぐるしい映像演出をする前半部分が、とにかくミュージカルになっていない。さらに、ダンスができないのか、鳴り物入りで抜擢されたアニー役のクワベンジャネ・ウォレスがぜんぜんその存在感が生きていない。ミュージカルシーンも短いかっとでごまかしているようにしか見えない。
唯一、さすがにキャメロン・ディアスが、その貫禄を映画に見せるダンスシーンはそれなりに見ることができた。
監督はウィル・グラックという人である。
今更物語を語る必要はないが、今回は、携帯電話やネット、Twitterなど、今時の小道具をその背景に配置して、現代的なアレンジになっている。しかし、テンポが乗ってこないので、ミュージカルとして楽しくないのだ。見ていて、一緒に踊ってみたいとか、歌ってみたいとかの衝動に駆られない。
ラストで、群衆シーンで踊るクライマックスは、ミュージカルらしくなるが、それまでは、ただのドラマにしか見えないのがとにかく残念。
ミュージカルをわかっていない監督が作った中途半端な、名作ミュージカルの映画化という感じの一本だった。
「シェアハウス・ウイズ・ヴァンパイア」
ニュージーランドのおふざけホラー映画、いや、おふざけフェイクドキュメントという感じの一本で、完全にB級映画である。
この手の、B級映画は、とにかく、そのばかばかしい展開とノリを楽しめばいいのだ。そして、それなりに楽しめたからいいのじゃないかという映画だった。
映画は、目覚ましとともに、棺桶から一人のヴァンパイアが目を覚ますシーンに始まる。そして、数人のヴァンパイアが共同生活している家に、カメラとスタッフが入っていくというフェイクドキュメントタッチで進んでいく。
ここで暮らす四人が紹介され、毎夜のように深夜のパブなどへ遊びに行く様子が描かれる。
ある日、一人の人間を最長老のヴァンパイアピーターがヴァンパイアにしたことから、どこかほころびが生じ、物語が動き始める。
人間のサポーター、ジェニファーや、ヴァンパイアの一人で、ある女性に恋をしていたが、乗る船を間違えられて、あえなかった話、さらに狼男族とのからみなどもあり、まるで普通の人間のドラマのごとく展開。
やがて、狼男たちとも仲良くなり、一緒に住もうかという流れになってエンディングを迎える。
様々にちりばめられた笑いのカットも楽しめるし、陰にこもらない展開も楽しい。ばかばかしいのだが、憎めないB級ホラーコメディとして楽しめる一本でした。
「ヤンヤン 夏の想い出」
三時間近い作品なのに、全く退屈しない。これは体調が良かったのか、映画がすばらしかったのか。たぶん、後者だろう。
エドワード・ヤン監督の2000年度作品、カンヌ映画祭監督賞受賞の一本である。
物語は、主人公ヤンヤン少年の叔父の結婚式に始まる。何気ない導入部であるが、祖母が気分が悪いと家に帰り、父がお客さんと言葉を交わすのに名詞がいると家に帰り、ヤンヤンの姉ティンティンが、ゴミを出しておいてと母にいわれるオープニングで、一気に、これからの物語の設定を説明してしまう。
最後まで見ると、この導入部の見事さに驚くのである。
その日、祖母は脳卒中で昏睡状態になる。その介護に悩んだ母は、導師の修行に出かけ、ティンティンは、自分が捨て忘れたゴミが原因で祖母が転んだのではないかと悩む。
学校では、ヤンヤンは女子にいじめられ、ティンティンは同級生の彼氏と恋に落ちる。父NJは、会社の運営が良くない中、日本人の大田との取引に意欲を見せる。そんな時、NJは若い頃別れた恋人のシェリーと再会する。隣人の両親は浮気問題も絡んで不穏な空気が漂う。
様々なエピソードを平行に描きながら、時に、父と娘の恋を対比させたり、ヤンヤンの冷静に大人たちを見つめる視線をカメラを通して描写したり、実に見事な構成で描いていく。
母が不在の中、元カノのシェリーと青春をとり戻そうとするNJだが、やはり、若い頃と同じく別れることになり、一方ティンティンの恋は失恋へと進むものの、彼氏はティンティンの隣人の不倫問題で殺人を起こしてしまう。
失恋の悲しみに暮れるティンティンは、夢の中かどうか、祖母が目を覚まし、ティンティンに許しを与える。そして、時を同じくして、祖母は他界するのだ。
父にもらったカメラで、人々の後ろ姿を写して「自分では見えないでしょ」というヤンヤンの言葉や、プールに興味を持って飛び込んでみたり、ヤンヤンの描き方も実に繊細で、美しい。
ほかにも、叔父夫婦のエピソードなどもからめ、淡々と繰り返すストーリーだが、決して、見るものを退屈させず引き込んでいく緊張感が途切れない。
普通の家族のほんのひとときの物語。そのシンプルさを、まるで鮮やかに彩られたエピソードを積み重ねて描く映像の見事さは、まさに名品と呼べる一本だと思います。すばらしい映画でした。