くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「繕い裁つ人」「ジャッジ 裁かれる判事」「恋人たちの食卓

kurawan2015-02-05

繕い裁つ人
窓から差し込む日差しが、柔らかく室内を照らしている。光線の帯が織りなす逆光の風景が、織物の縫い目を表現するような美しいシーンから映画が始まる。

室内のライティングが、とにかく柔らかくて、優しくて、美しい。それだけでもこの映画を見る値打ちがあるという物である。監督は三島有紀子

神戸で個人の洋裁店を営む南市江の店に、ブランド化をするべく足を運ぶ、大丸百貨店の藤井が訪ねてくるところから物語が幕を開ける。

先代の服を手直ししながら生活をする南市江。藤井がなんといおうとデパートやネット販売をかたくなに拒否する下りが前半部。この展開が、実に美しくて素敵なのだが、後半に入っていくに従って、その夢のようなムードが崩れ始める。この映画の難点は後半部であるが、それでも、中谷美紀の見事な演技で、最後まで作品をしっかりと支える。

藤井の妹のウェディングドレスのデザインをし、夜会にやってきた高校生三人にドレスを作らせてほしいという市江の言葉、そして、先代から、少し一歩前に飛び出した彼女のクローズアップで暗転、エンディングとなる。

全体に、本当にもったいない出来映えになった。一貫性が崩れる後半の弱さと、柔らかい照明効果さえもおざなりになってくるのが、本当にさみしい。でも一般の評判ほど悪い映画ではないと思います。私は十分に楽しむことができました。


「ジャッジ 裁かれる判事」
二時間を超える作品だというのに、全く緊張感が途切れない。父と子供の親子ドラマという地味な内容が中心であるが、だれないのである。

本編の物語の周辺にちりばめられた、たわいのないユーモアが、作品をきらきら彩っているのである。

監督はデビッド・ドブキン、撮影はヤヌス・カミンスキーなのだからスタッフはしっかりしているし、ロバート・デュヴァル、ドバート・ダウニーJrとキャストもしっかりしている。本当に丁寧に描き込まれた人間ドラマの秀作でした。

映画は、敏腕弁護士として活躍するハンクが、法廷にたったとたん、携帯で、母が死んだことを知らされるところから始まる。冒頭のトイレのシーンから、一気に引き込む映像テクニックがうまい。

実家に戻ったハンクが、確執のある父ジョセフと会い、やがて、そのジョセフが、かつて自分が判決した男をひき殺した疑惑が浮上、彼の弁護をすることになる。

こうして本編が始まるが、ハンクの元カノとの再会、その娘と知り合い、その仕草に、自分の今の娘と同じ、髪をくわえる癖があったり、実は元カノの娘が自分の子ではないかという疑惑なども、エピソードにちりばめていく。

そして、ジョセフが末期ガンであることを知り、物語はどんどん深くなっていく。

最後の判決で、有罪が確定、それでもジョセフとハンクの間は埋まらないが、ガン故に恩赦をもらい、ボートの上で二人で話し、「最高の弁護士はハンクおまえだ」と最後に語った後に息を引き取るラスト。さらに元カノの娘がハンクの兄の子供だった知らされるエピローグまで、しっかり作り込まれた脚本が実にうまい。

友人に勧められて見に行ったが、期待通りの出来映えだった。隠れた秀作とはこのことだと思う。


「恋人たちの食卓」
一流ホテルのシェフだった父親を中心に、三姉妹がおりなす、ハートフルな恋愛物語。監督はアン・リーである。

次々と料理が作られていく様が、手際よいカメラで映し出されて映画が始まる。料理をしているのはこの家の当主で三姉妹の父。毎日曜は家族で食事をするという習わしがあり、この日も父が料理を作っている。

高校教師で、学生時代の失恋の痛手からいまだに恋人もできない長女。キャリアウーマンで、恋人もいるものの、仕事と恋愛に揺れる次女。女子大生ながら、自由奔放な三女。

アン・リーらしい軽快な音楽を物語に織り込みながら、年とともに味覚が失われていく父の姿、職場の姿、友人の話、娘たちの悩みが軽いタッチと絶妙のリズム感でつづられていく。

なんといっても、次々とでてくる台湾料理の数々が目を見張るほどにすばらしい。

そして、均衡が破られるのが、三女が妊娠して家を出ることになり、長女の失恋話が作り話であることがわかり、家族の均一が崩れていく。長女も学校で密かに思いを寄せていた教師と突然の結婚、次女は昇進し、それぞれが離ればなれになっていく。

父の親友の死から、いつも遊びに来ていたバツイチの女性と父が、年の離れた結婚を決めるクライマックス。

家を売りに出し、久しぶりに父が戻ってみると、最後の日曜の料理は幼い頃から父に料理を教えられていた次女が作っていて、二人きりで食べはじめるが、突然父の味覚が回復、ゆっくりカメラが引いてエンディングになる。

たわいのないホームドラマなのに、魅せる、引き込まれる。これがアン・リーの手腕なのだろう。いい映画だった。