くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さらば、愛の言葉よ」「複雑な彼」「肉体の学校」

kurawan2015-02-06

「さらば、愛の言葉よ」
ジャン=リュック・ゴダールが3D映像に臨んだ意欲作。

確かに、縦深い構図で様式美をねらった映像は、近年の他の3D映画とはちょっと違う印象を受ける。特に、オーバーラップさせた二人の人物に3D効果を含ませたり、スローモーションなどに3D映像を組み合わせた演出は独特の世界である。しかし、さすがに凝りすぎると、見ている側に苦痛が発生してくる。

終始、手前に物を置いて、立体効果をねらっているために、脳が、妙な陶酔感にはまりこんでくるのである。

確かに、斜めに構えるカメラに、さらに3D効果が加わり、深い映像が生み出される。さらに、ゴダール独特のマリンブルーやイエロー、赤を使ったサイケデリックな映像、そして、水面や、車のガラスの水滴、ガラスに映る景色を3D化する事で、二重三重にスクリーンを見せる効果は特筆できると思う。

確かに、実験的な意欲作だが、ストーリーを追いかけることに意識がついていかない。ただでさえ、近年のゴダール映画は物語をつかみにくい。結局ラストシーンに至る流れを把握できないままにエンディングになってしまった、というのが見て直後の感想です。


「複雑な彼」
たわいのない、軽いタッチのラブストーリー。何の変哲もない一本だった。監督島耕二

世界中をとびまわる主人公譲二はスチュワードである。彼が飛行機の中で、冴子という女性と出会うところから映画が始まる。

世界の名所をちりばめながら、譲二のプレイボーイぶりを描き、冴子に心底惚れている自分に目覚める物の、彼には過去があり、背中に入れ墨があることを冴子に告白するクライマックスとなる。

とにかく、古さを感じざるを得ない映画で、昭和レトロを体感するだけの作品でした。


「肉体の学校」
素晴らしい隠れた傑作に、また出会うことができました。スタイリッシュという言葉がぴったりの、陰影を巧みに使った舞台劇のような演出。テクニカルな映像を多用した多彩な演出、岸田今日子山崎努の鬼気迫る演技、どれを取っても、見事と言うべきもののそれぞれが融合された、映像世界の完成品でした。素晴らしかった。監督は木下亮です。

映画が始まると、いかにも金持ちそうな三人の女。かつての貴族、妙子を中心に、今も活躍しているマダム達の会話から始まる。

話の流れで、ゲイバーに遊びに行った三人、妙子がそこでバーテンをしている千吉に惚れ込んでしまう。そして、金と地位に物を言わせ、千吉を自分の愛人にするが、一筋縄ではいかない千吉は、次第に妙子を翻弄していく。

千吉と同棲するために買ったマンションの部屋、ど真ん中にギリシャ彫刻がある美術が度肝を抜く。そして、その彫刻を巧みに使った構図の面白さ。さらに、時折、スポットライトを当てたような演出で、人物を浮かび上がらせたり、手前と奥向こうに配置した極端なパンフォーカスのカットも見事。数少ない屋外シーンでも、道路や建物の配置を意図して作る画面が秀逸である。

千吉を引き止めるべく、小娘のように変わっていく妙子。そんな妙子を焦らすような行動をする千吉。

クライマックス、妙子の友人秀子の娘と結婚する流れになってしまった千吉に、ゲイバーの店長からとっておきの写真を手に入れ、千吉に燃やさせることで、千吉は、妙子に素直に惚れ込み、泣き崩れるが、形成逆転したと知るや、妙子は千吉を捨ててしまう。

冒頭の三人が遊園地の急流すべりではしゃぐシーンでエンディングだが、このストーリー展開の鮮やかさも見事なのである。

千吉がパチンコをするシーン、目をつむった千吉の目から流れる涙をそっと指で取り、口に含む妙子のカットなど、細かいところも、決して手を抜いてこない。

緻密に組み立て、構成していく映像の妙味と、ストーリー展開の卓越さにすっかり酔いしれた一本でした。素晴らしかった。