くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「娚(おとこ)の一生」「ラブストーリーズ コナーの涙」「

kurawan2015-02-16

「娚(おとこ)の一生」
広く空間をとって、シンメトリーな落ち着いた構図で描いていく邦画の良作でした。シンプルかつ平坦な物語なのに、あそこまで見せた演出と脚本がうまい。監督は廣木隆一

映画は主人公つぐみの幼少時代。おばあちゃんの十和が染め物をしている。かたわらに一人の青年がいるカットから始まる。

時は一気に飛び、つぐみが大人になり、時計のゼンマイを巻いている。十和が亡くなったという現代へ。

こうして映画が幕を開けるが、田園地帯に囲まれた景色、旧家の広々したたたずまい、落ち着いた庭など、平面的な構図を多用し、その中に人物を配置した構図が頻繁にでてくる。その落ち着いた感じが、小津安二郎を思い出さざるを得ない。

この家の離れに突然やってきたのが中年の海江田。大学教授で、すでに年は50歳。十和からもらっていた鍵で離れに住んでいるという。どうやら、十和の元彼らしい。

奇妙にも、つぐみと海江田は同居となり、いつのまにか、海江田はつぐみの許嫁となっていく。あれよあれよという展開なのに、豊川悦司が演じると嫌みがないし、ふつうに見えてしまう。しかも対する榮倉奈々もしっかりと豊川の演技を受け止めているから見事だ。

物語はこの後いたってシンプルで、捨てられた男の子をわずかの期間世話するエピソードや、海江田の実家につぐみが出かける話、さらにつぐみの元彼がやってくる話などが語られる。とくに劇的な話はないのに、のどかな田舎の空気に、妙にいやされるほどに引き込まれる。たぶん、脚本のうまさだろう。

クライマックスは、つぐみの元彼と喧嘩した海江田がどこかへいって、孤独を感じるつぐみの姿から、台風のシーン、十和の友達のおばあちゃんを助けて家に戻るつぐみの前に海江田が戻ってきてハッピーエンド。うん、ふつうだな。と思ってしまう。

しかし、全体の構成の美しさ、さりげない大人のラブストーリーに仕上げた廣木隆一の演出は見事だと思う。いい映画、良品の一本に出会った感じでした。


「ラブストーリーズ コナーの涙」
男の視点、女の視点から描かれるラブストーリー二作品の男の視点版。監督はネッド・ベンソン。

仲むつまじいカップルのコナーとエリナーが、レストランで食事しているシーンから映画が始まる。二人はお金を払わずに、飛び出し、公園で抱き合って暗転、「HIM」というタイトルがでる。

子供を亡くし、失意のなかにいる二人、やがて、なるべくして二人は別々になってしまう。コナーは自分のレストランも経営が芳しくなく、エリナーへの愛情は薄れることなく追い求めている。エリナーは大学に聴講生として再入学している。

エリナーを追い求めるコナーの苦悩が、淡々と語られていくのが本編で、夜の町を効果的にとらえる画面が、彼の寂しさを演出していく。

そして、コナーは父が起こしたレストランを継ぐことに決め、アパートも引きはらおうと決心。自分の店は畳むことにする。自分の店の閉店パーティで、あるカップルが無銭飲食で逃げたのを追いかけ、追いつくが、かつての自分を思いだしたか、金を取らないで去る。

アパートを引き払う夜、気がつくとエリナーが傍らにいて、愛し合う。翌朝、誰もいなくなったアパート。コナーはレストランの仕事に奔走し、開店前、夜の公園に一人出かける。フレームインしてエリナーが彼の後を歩いていき暗転エンディング。

物語の途中で、コナーとエリナーが偶然、あるいは、エリナーがわざとコナーの前に現れるシーンが挿入される。そのさりげなさがこの作品のテーマ的なものだと思う。

コナーが追い求めたエリナーへの愛情が、最後にエリナーからコナーに向けられるラストが美しくも切ない。ラブストーリーの映像としての一つのファンタジックな完成品という感じでした。物語は平坦ですが、コナーから亜りんーへの愛情に焦点を絞ったストーリーがちょっとすてきな一本、よかったです。


「ラブストーリーズ エリナーの愛情」
こちらは、女性の視点からの作品。

エリナーが自転車に乗って橋の上にさしかかったところから映画が始まる。橋の上から身を投げ、助けられて病院へ。「HER」の文字でタイトル。

そして物語は、彼女が実家に戻り、子供を亡くしたことと、夫から離れたことに対する傷心の日々を描いていく。実家の妹ケイティとの日々や大学に聴講にいってのエピソード、それらに絡んで、「コナーの涙」で描かれる映像が逆から重なってくる。

こちらの映画は、どちらかというと暖色の色彩を中心にした、どこか暖かい感じの画面づくりで、コナーから離れるためにフランスに旅立つ場面をクライマックスにしている。

そして、戻ってきたエリナーは、レストランで働くコナーを見つけ、夜の公園へ追いかけていって、声をかけるシーンで暗転エンディングとなる。

二つの作品を見ることで、それぞれのラブストーリーが、さらに深みのある人生の一瞬をとらえるような味わいを見せてくるあたりが、この作品二本の魅力ではないかと思います。

秀でて強烈な感動を呼び起こすというたぐいにものではありませんが、男と女の恋の行く末をファンタジックに描いた一本として、とっても素敵な映画だった気がします。