くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グッドフェローズ」「ディア・エヴァン・ハンセン」

グッドフェローズ

ワンシーンワンカットと細かいカットを繰り返す美しいカメラワークも綺麗だし、雑多な物語に流れるのを見事にストーリーテリングしていく演出も秀逸でいい映画ですが、果たして名作かというとそこまでいかない気がします。30年ぶりに見直したものの初めて見た時の印象があまり残っていなかったのがその証拠かもしれません。でも2時間を超えるのに全然退屈しないというのはいい作品ということでしょう。監督はマーティン・スコセッシ

 

ヘンリー、ジミー、トミーが車を運転しているがトランクに乗せた人間が暴れているのに気がつくところから映画は始まる。時は1970年、始末してトランクに乗せたはずが生きていたので、再度殺して、埋めてしまう。ここから時間が遡り、主人公ヘンリーの少年時代から、次第にギャング世界でのし上がっていく様を描いていきます。

 

地元イタリア系マフィアのボスポーリーに気に入られたヘンリーは次第に頭角を表し、以前から実力派だったアイルランド系のギャングジミーと一緒に仕事をこなし始める。もう一人の相棒はイタリア系ですぐにキレて暴れるトミーだった。3人は次々と大きな仕事をこなしポーリーにも認められていくが、ヘンリーは妻カレンとの仲は冷めたものになっていく。さらに、ポーリーやジミーが反対する麻薬の取引に隠れて手を染めていく。

 

大きな仕事をこなしていくヘンリー、ジミー、トミーはお互いをグッドフェローズと呼び合って絆を強めていくが、ポーリーはそんな彼らが鼻につき始める。そしてふとしたことからポーリー、ジミー、ヘンリー、トミーらが逮捕されるに及んでどこか歪みが生じ始める。ところがここにきてアイルランド系でもあったトミーはポーリーの組織の幹部に昇格することが決まり、ジミーは嬉々として喜ぶ。しかし、それはポーリーが、かつてジミーたちが冒頭で殺した地元の有力ギャングの復讐のためで、トミーは殺されてしまう。さらにルフトハンザ航空の仕事で大きく金を手にしたものの露見するのを恐れたジミーが関わったメンバーを次々と殺し始め、ジミーからも狙われていると判断したヘンリーは司法取引で保護プログラムを受けることを決意、ジミーやポーリーを告発する証言台に立つ。そして、新しい住まいを与えられている姿で映画は終わる。

 

雑多な展開にもかかわらず見事に整理されている演出は流石にマーティン・スコセッシ全盛期の一本という風格のある映画でしたが、名作というレベルまではいかないのではないかと改めて思いました。確かに面白いし、映像もさすがですが、独特の深みがやや物足りないところがある気がします。

 

「ディア・エヴァン・ハンセン」

つかみは面白いし、舞台ミュージカルとしてはよく出来た作品ですが、脚本が薄っぺらいし、映像にするにはもう一歩登場人物の背景を描かないと持たないと思います。こういう話にみんなが引き込まれる時代になったのかという落胆と、汚れた部分を上塗りして自己満足している今の世界という現実を垣間見ることになり、何とも言えないスッキリしないものが残る映画でした。アラナを演じたアマンドラ・ステンバーグという女優さんが素敵なのと楽曲はどれも良かった。監督はスティーブン・チョボウスキー。

 

内気で心を開くことにやや障害のある主人公エヴァンがセラピストの宿題で自分宛に手紙を書いている場面から映画は幕を開ける。左手を骨折していてギブスをしている。母は夜勤の多い仕事をしていてほとんど顔を合わせることもなく、大学進学のために、エヴァンも奨学金付きの作文への応募を検討している。父はエヴァンが7歳の時に家を出たということで、どちらかと言うと生活は厳しい。母のハイディはギブスに落書きしてもらって友達を作りなさいと勧めるがエヴァンは乗り気ではない。

 

エヴァンはロッカーでたまたま目があったコナーに激しく罵倒され、訳もわからないままにその妹のゾーイにフォローされる。図書館で手紙を書き直して思わず印刷してしまったエヴァンはその届に並んでいるとコナーがやってきて、ギブスに落書きしてやるといわれ、無理矢理コナーの名前を書く、その際エヴァンが落とした手紙をコナーが拾って持ち去ってしまう。

 

慌てたエヴァンは、ネットなどにアップされないかビクビクしていたが翌日からコナーが学校に来なくなる。まもなくしてコナーの両親が学校にきて、エヴァン宛の手紙をコナーが持っていたので、コナーの友達だと勘違いし、思い出話を聞きにきたのだという。コナーは自殺していた。エヴァンはコナーの両親に食事に誘われ、正直に話すつもりが、母シンシアの悲しみを見るにつけ、つい嘘の話を作り上げてしまう。コナーは家庭内暴力を起こしていたらしく、家族からも特に悲しみはないのだとゾーイに言われる。

 

一方、さまざまなボランティア運動をおこなっているアラナはコナー追悼会としたいのでエヴァンにスピーチを依頼してくる。こうしてエヴァンの嘘はどんどん周りの人に影響していきエヴァンはどうにもならなくなっていく。しかも追悼会でのエヴァンの辿々しいスピーチがネットで話題になり反響が広がる。そして、コナーの所有するリンゴ園で、今は放置されている農園を再興しようとアラナはクラウドファンディングを立ち上げてしまう。

 

ゾーイもエヴァンに好意を持ち始め、エヴァンは今の自分の居心地を守り始める。ところが、アラナが立ち上げたコナープロジェクトも次第に尻すぼみになり始め、義援金も目標まで後一歩で伸び悩んでくる。さらに、アラナはエヴァンに疑念を抱き始める。

 

エヴァンはアラナに詰められ、ついコナーの家族だけにしていた自分の書いた手紙=コナーの遺書と勘違いされているものをアラナに見せてしまう。ネット拡販にはしないようにと言ったが、義援金などで追い詰められてきたアラナはネットにアップしてしまい、大炎上し、コナーの家族にも火の粉が放りかかる。

 

エヴァンはコナーの家に行きことの次第を告白する。時間と共に沈静化してきたが、農園は完成。エヴァンはコナーの過去を調べ、施設で治療を受けている時にギターを奏でるコナーの映像を入手しコナーの両親ら迷惑をかけた人たちにデータを送る。やがて、卒業したエヴァンはゾーイに農園へ呼び出される。そこで、お互いの今を確認し映画は終わっていく。

 

嘘で塗り固め、それでお金まで集める展開、そしてそれで農園を再興していく流れから、その後、結局普通になるという展開があまりにもずさんで荒削りに薄っぺらい。もちろん、今はこういう世界なのだと言えばそれまでですが、それもどこか歪んでいるのではないかと思う。それと、エヴァンの周囲のキャラクターが描ききれていないし、家庭内暴力を起こすようになったコナーの家庭の背景、さらにエヴァンの家庭の背景も描き方が実に甘く、映画全体が上滑りの仕上がりになった気がします。曲がいいのでミュージカルとしてはまぁまぁですが、作品としては中の下のレベルだった気がします。