くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「トランボ ハリウッドで最も嫌われた男」「ヤング・アダル

kurawan2016-07-22

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」
ローマの休日」などの脚本家でもあるが、ハリウッド赤狩りで迫害され、実名を出さずに次々と傑作を世に出した名脚本家ダルトン・トランボの自伝映画である。その内容の面白さに引かれるのだが、ストーリーの流れがちょっと平坦で、終盤、さすがにしんどくなってしまった。監督はジェイ・ローチである。

時は第二次大戦前、米ソ軍事条約が締結され、アメリカ人も多くが共産党員となった。しかし終戦後冷戦となった途端、共産党員が敵視され、彼らを追い詰める団体の迫害に遭い始める。そんな出来事がハリウッドにも押し寄せてきたのだ。映画はそこから始まる。

ハリウッドで一流という地位を築いたダルトン・トランボも、その迫害の嵐の中に放り込まれる。しかし、彼は信念を曲げることなく、ついに、偽名を使って脚本家活動を続ける。そして「ローマの休日」は見事アカデミー賞をとるのだ。

ダルトン・トランボの存在を知るB級映画のプロデューサーたちも彼に脚本を頼み、次々と発表する脚本が時にアカデミー賞にノミネートされる。

映画は、その様子を次々と描いていくのだが、中心になるポイントが見えづらく、ただ彼の偉業というか、信念を貫く行動のみを順番に描いていく。娘との確執も描かれるが、さりげなくかわされるし、エドワード・G・ロビンソンの裏切りなどもさりげなくことを済ます。

結局、オットー・プレミンジャーカーク・ダグラスも彼の才能に頼らざるをえなくなり、そして認め、やがて、赤狩りも有名無実になっていき、彼は晴れて認められるようになってエンディングとなる。

史実としてみるには、しっかりできている作品であるが、映画の構成としてはやや適当にさえ見えなくもないのが残念。もう少しサスペンスフルな展開も交えて、リズム感を持たせるべきだったかもしれない。しかし、こういうあり方の映画もありだとは思う。そんな映画でした。


「ヤング・アダルト・ニューヨーク」
ちょっと面白い作品でした。前半がまるでウディ・アレンの映画を思わせるちょっと風刺が絡んだような展開でおもしろい。ただ、後半からクライマックスへの畳み掛けの場面の配置がちょっと遅すぎて、ややだれてしまうのが残念。でもラストの締めくくりは秀逸。監督はノア・バームパックである。

8年間も作品を発表していないドキュメンタリー作家のジョシュ。妻のコーネリアとの仲もややマンネリになっている程である。友達は子供ができて、どこか毎日の価値観にズレが見え隠れする。この皮肉めいたずれた会話の応酬がちょっとおもしろい。

コーネリアの父は著名な映画監督である。

大学で教えているジョシュの前に、若い夫婦ジェイミーとダービーが近づいてくる。彼らは、一昔前のレトロな空気を重んじ、ただ、現代的であろうとするジョシュたち夫婦に何かの刺激を与えてくる。

ジョシュを尊敬するというジェイミーは彼を担ぎ出してドキュメント映画を撮ろうとする。そして、たまたまFacebookで近づいてきたジェイミーの友人のことをカメラに収めていくが、なんとその男性はアフガニスタンからの帰還兵で、英雄であることがわかり、一気に盛り上がってくる。

ジョシュも、偶然とはいえ、何気なく撮影を始めたドキュメンタリーが思わぬ拾い物になり嬉々とする。ジェイミーはコーネリアの父親にも近づき、やがて、作品は完成する。

その過程の中で、コーネリアはジェイミーとキスをしてみたり、怪しげな集会に夫婦同士参加したりして、どこか奇妙な映像も展開。

ところがふとしたことから、ジョシュはこのドキュメンタリーが全てジェイミーが仕込んでいたことだとわかる。根本的な話は正しいが、偶然を装って飛び込んだという導入部がヤラセだったのだ。

映画の発表でコーネリアの父がスピーチをし、パーティは佳境になったところへ、ジョシュがその真相を暴露するべく飛び込んでくるが、ジョシュの言葉にコーネリアの父も、それは重要ではないと一喝してしまうのだ。

そして、1年後、ジョシュたちは子供を作るために旅行に出る。空港で目の前に座る幼い子供が携帯をいじり電話をしている姿を見て、思わず苦笑いする。手元の雑誌には表舞台に出たジェイミーの写真がある。「悪魔は放たれた」という言葉に「若いからよ」と答える。

若さこそが悪魔なのだ。その罪悪感もない自由奔放な姿こそ若さなのだ。そして誰もがそんな悪魔の時代があったのだと言わんばかりで映画は終わる。

うまい。とにかく、終盤の畳み掛けの部分からラストは見事なのだが、そこに至るまでの後半の真ん中あたりがちょっと弱い。夫婦が出会い、怪しい集会に行ったり、子供がいる友達の愚痴が出たり、コーネリアとジェイミーの、ジョシュとダービーが微妙に近づくあたりが実にうまいのだが、そこから、真相を発見するまでの僅かの隙間がちょっと間延びしているのである。

でも、個性的でオリジナリティ溢れる一本でした。洒落た映画です。