「婚約三羽烏」(’57)
たわいのないラブコメディですが、当時のモダンな映画の典型でとにかく楽しい。出演者が一流どころで、オールスター映画のごとく登場するのも映画黄金期の世界である。
ある服飾会社に就職した三人の青年が主人公で、それぞれに婚約者がいるのに、三人とも就職先の社長令嬢に恋心を持ってしまう。
ところが、令嬢にはすでに婚約が決まった常務がいるというラストのどんでん返しでエンディング。
全くたわいもない映画である。オリジナルは戦前の島津保次郎監督版の映画で、オリジナル版は知らないが、しゃれたコメディ映画でした。
「智恵子抄」(原節子版)
ご存じ高村光太郎の愛妻の物語。一昨年見た岩下志麻版とうってかわって原節子版。
暗闇で一心不乱に切り絵をする智恵子の姿をとらえてタイトル。そして時は昭和二十年、一人自給自足生活に入った高村光太郎が、智恵子を回想する場面に始まる。
これという優れた映像美は見られないが、丁寧に絵づくりしようとする姿勢が伺える作品で、そのまじめさが、画面から伝わってくる。
高村光太郎の若い日は簡単にすませ、智恵子との出会いから結婚、そして精神的にまいっていく智恵子の姿から、狂ってしまった彼女を献身的に支える光太郎がメインになる。
原節子はやはり笑顔が似合いますね。暗い顔の彼女は魅力が半減している気がします。
ラストは、彼女が死に、冒頭のシーンになってエンディング。それなりの一本でしたが、ふつうの映画でした。