くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲」「ふんどし医者」「女

kurawan2016-09-06

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲
クロード・ルルーシュ監督、音楽フランシス・レイのコンビで送る大人のラブストーリー。名作「男と女」を思い出させようということであるが、ちょっとラストの処理が月並みになった感じで、少し物足りなかった。とは言っても、さすがにラブストーリー部分の処理や、突然の幻想シーン、時間の遡るカットなどのリズムは見事かなと思えます。

インドの風景と、沐浴場などの日常の景色が描かれるところからタイトルバックで映画が始まります。一人の女性がバレーのレッスンを受けている。その映像にかぶって宝石店に強盗に入る若者。若者は車で逃げる、一方ダンサーの女性は自転車で帰る。途中で接触事故になり、女性は重症で倒れる。彼女を車に乗せる若者。捕まることも辞さず病院に駆け込む。

この冒頭の出来事を映画にしたいというオファーをする映画監督のカットから、インド版「ロミオとジュリエット」がスタート。映画音楽作曲家のアントワーヌがこの映画の音楽担当としてパリからやってくる。そして、インドでのフランス大使のアンナと出会います。

アンナは子供を授かるために聖者アンマに会いに行くという。一方やたら頭痛がするので病院で見てもらったアントワーヌは血栓ができていて危険だという。そこでアントワーヌもアンマに会いに行くことにする。こうしてアンナとアントワーヌは同じ汽車でアンマのもとへ。アントワーヌには結婚間近の恋人がいて、一方アンナは大使の妻である。お互い惹かれながらも愛し合ってはいけないという一線を越えない会話が続く。

時折、アンナと大使の馴れ初めや、アントワーヌの恋人のアリスが大使のところで待っているというカットなども入る。そしてアンマに抱擁されてのち、アンナとアントワーヌは愛し合う。

翌日、大使が待つ空港へ。そこでお互い、夫と恋人と再会。しかし、大使の一言もあり、ことの真相が暗黙で明らかになる。アントワーヌはアリスと別れ、アンナも夫と別れるという展開になり暗転。

時が経ち、空港で降り立ったアントワーヌはそこでアンナに再会。アンナのそばにはアントワーヌという名の4歳の男の子が。四年の歳月が経ったのである。驚くジャンプカットで物語は終盤へ。一時は挨拶だけして別れるが、アントワーヌは再度アンナのいる部屋に入って行ってエンディング。

このエピローグ場面が必要だったのかどうかちょっと疑問ですが、それほど鼻につくほどではないところが処理のうまさというべきでしょうか。とは言ってもアンマと会ってから、ベッドで愛し合い、その後のラストまでがちょっともたついて見えなくもない。鮮やかなラストで締めくくった方があっさりしたような気もするのですが、欲でしょうか。なんせ「男と女」の名コンビなのですから期待も大きいのです。でもクオリティはさすがに高い一本でした。


「ふんどし医者」
さすがに稲垣浩監督は見せ方がうまい。たわいのない人情ドラマだが、人間ドラマの機微を見事に描き切る。もちろん、この作品は稲垣浩監督作品の中ではそれほどの出来栄えではないのですが、面白いという点ではさすがに頭がさがる出来栄えである。

女房が博打好きで、夫の着物まで博打につぎ込んでしまう。そんな女房になんの不満もなく付き合っている田舎医者が主人公。当然ながら人情に厚く、しかも腕がいい。この医者が、物語の導入部で大手術をして助けた一人の渡世人が、長崎で勉強して立派に医者となって戻ってきて、そこへ、チフスが流行するクライマックスへと流れていくが、当然この主人公には若き日の盟友がいて、二人とも医術が優れていたが、一方は出世して中央へ、一方は田舎で庶民の味方をしているという流れである。

最後は、チフス騒動の末に、主人公は弟子となった若者を盟友のもとに届けて、またふんどし医者となって闊歩する姿でエンディング。

博打好きの女房役の原節子が、今ひとつキャラクターが際立っていないし、主人公を演じた森繁久彌がいつものような演技力が引き立たず全体としてはぼんやりとした出来上がりになっているのは残念である。

とは言っても、最初にも書いたが、最後まで飽きさせないほど見せ場の連続である。職人監督としての力量で仕上げたという感じの一本でした。


「女医の診察室」
なんとも雑な映画だった。エピソードが短いカットで繰り返され、それが最後まで続いていくし、ストーリーの根幹がぼやけているし、メロドラマなのか医療ドラマなのかも不完全で、呆れるほど。監督は吉田廉という人です。

主人公は産婦人科の部長で腕が立つ。しかし心臓に病気があり余命いくばくもない。そこへかつて思いを寄せたらしい男性がこの病院にやってきて、過去がどうのこうのという展開と、その男性の妻との三角関係なども絡んでいくのが本編らしいが、妙にリアルな手術シーンや、患者たちのエピソード、ハイキングシーンなど、どれも抑揚のない並べただけのような展開がわけがわからない。

結局子宮外妊娠で担ぎ込まれた妻の手術を主人公が無理をして行ったためにクリスマスの夜に死んでしまってエンディング。

妻の子宮外妊娠も既に手遅れという診断まで出るのに、なぜか助かってしまったり、いたるところに脚本のアラが見え隠れする。まぁ、一方で映画史に残る「東京物語」にも出ている原節子が、こんなたわいもない映画にも出ているというのを見るにつけ、かつて映画は娯楽の王様だったのだと、妙なノスタルジーに浸ってしまいました。