「風音」
沖縄を舞台にした映像詩という感じの一本で、素朴な中に何かしら不思議でファンタジックな色合いのある作品でした。監督は東陽一です。
夫の暴力に耐えかねて、本土から沖縄に帰ってきた和江と一人息子。その地の海岸の岩場に骸骨が祀られている。その骸骨は頭の部分に銃弾で空いたと思われる穴があり、風が吹くと不思議な音がする。かつて沖縄戦で海岸に打上げられた兵士の骸骨らしい。
戦時中、その兵士と恋仲にあった一人の老婆がこの地を訪れる。叶わぬ恋の物語と、夫の暴力から逃れた女の子供の物語が、何気なく組み合わさって、ノスタルジーとファンタジーが入り混じったような展開を見せる。
冒頭、少年がバスの座席に止まった蝶を見つめるファーストシーンから、終盤、骸骨を岩場に置いた老人の背後に舞う蝶、さらに、別れの時に託された手紙を破いて撒いてしまう老婆のカットなど、詩情豊かな映像がいたるところに挿入され、戦禍の物悲しさを描きながら、どこか美しさが見え隠れする。
心にやんわりと訴えかけてくるイメージの作品で、小品ながら、しんみりと感じ入ってしまいました。