くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「黒衣の刺客」「キングスマン」

kurawan2015-09-16

「黒衣の刺客」
徹底した様式美と色彩演出を駆使した映像詩的な作品の傑作。開巻からエンディングまで、その作り込まれた美しい世界に魅了されてしまいます。監督は侯孝賢,そしてカメラはリー・ピンピンです。

モノクロスタンダードの場面、二頭のロバが繋がれているショットから映画が始まる。この作品は、モノクロスタンダード、カラースタンダード、ワイドスクリーンと画面サイズにもこだわり、作品全体を一つの詩篇のごとく仕上げていきます。

ただ、物語が、静かで淡々と進むために、展開は、正直しんどい。さらに、冒頭の説明的なシーンで語られる人名などが漢字のために、最初の整理が辛い。

物語は、主人公の隠娘が、師である女道士から、一人の男を殺すように言われ、鮮やかに首を裂くシーン、そして、すでに技量は備わったから、次の段階に進むべく、俗世間、つまり母の元に戻される。
目的はかつての許婚を殺すこと。

こうしてストーリーは動きはじめるが、静かなカメラワークで、じっと捉える人物の姿、舞台セットの配置、美しい景色、何もかもが徹底的に計算され尽くされ、背後に聞こえる音の効果も、作品にリズムを作り出していく。

しかし、全体にはスローである。その静かな流れが、時に眠気を呼んでしまいます。

隠娘のアクションシーンはキレがあるし、スピーディですが、そのシーンのみを引き立たせるために、さらにその他のシーンが、静かに語られる。

結局、ことを成せず、師から、まだ情を断ち切れていないと言われ、元の田舎の村に帰ってエンディング。

しかし、美しい。これほど作り込まれた映像詩的な作品は久しぶりに出会った気がします。それだけでも必見の一本だった。


キングスマン
CGでなんでもできるからといって、度を過ぎて、節度を失い、悪ふざけしている自分に気がつかないまま作られた映画という感じ。マシュー・ボーン監督は「キック・アス」でみせた才能がありながら、お金が使えるようになって、やりたい放題をした結果、下品な映画に仕上げたという感じです。この映画のクライマックスで、拍手したり、歓声をあげた人がいたらあなたは狂っています。そう言いたいです。

映画は1997年中東、特殊部隊が乗り込んで、敵を倒す寸前に、拉致した敵が手榴弾を隠していたことの気がつき、すんでのところで一人が体を張って仲間を助けるシーンから映画が始まる。

亡くなった仲間の家族を見舞うハリーは、困ったことがあればこの番号に電話をして合言葉を言いなさいと一個のメダルを少年に渡す。

そして時は現代、一人の博士が、山深い小屋に拉致されていて、そこへやってきた紳士は一瞬で悪人をやっつけるが、後から現れた義足の女に真っ二つにされ殺される。真っ二つにされたのはラファエルというキングスマンだった。

一方、青年になった主人公のエグジーは暴力を振るう母の恋人から逃げて友達とバーへ。そこでふざけて警察に捕まる。困ったエグジーは、ネックレスにしているメダルを見て電話をして釈放される。

助けてくれた紳士ハリーとカフェで飲んでいると、悪ガキが絡んでくる。しかしみるも鮮やかに敵を倒すハリー、実はかれはキングスマンと呼ばれる秘密スパイ組織のメンバーだった。

ハリーは、かつての命の恩人の息子であり、運動神経も抜群と思ったエグジーを、欠員募集しているキングスマンのメンバーに迎えるべく、マーリン教官の元で訓練させることに。

こうして、前半はこのエグジーを含め、何名かの過酷な訓練シーンが描かれるが、ここも結構面白い。

敵は、ヴァレンタインと呼ばれるIT企業の社長で、世界中に無料のSIMチップを配り、スイッチ一つで、衛星からの電波でお互いに殺し合うようにできるようにし、人口を勝手に減らす計画をしている。

さらに、親しい人物で仲間にした人間の耳の後ろにチップを埋め込み、いつでも頭を爆破したりできるようにして、必要な人間だけ残す計画をしているのだ。

ヴァレンタインの陰謀を砕くために近づいたハリーだが、逆に誘導できるワインを飲まされ、大量殺戮を演じさせられ、殺されてしまう。

自分をスカウトしてくれたハリーの仇を討つため、再びキングスマンのところにやってきてアーサーと会うが、なんとアーサーの耳の後ろにもチップ埋め込みの跡があり、彼もヴァレンタインの一味であることに気がつく。

巧みにアーサーを倒し、マーリン教官と一緒にヴァレンタインのところに乗り込むエグジー、いでたちはハリーと同じスーツ姿にステッキ。

しかし、この後が良くない。敵を倒すアクションシーンは、さすがに面白いのだが、ピンチになってきたマーリンがヴァレンタインのコンピューターをハッキングし、ヴァレンタインが埋め込んだチップを爆破する。すると、ヴァレンタインのアジトに集まっていた人々の頭が、キノコ雲のように、次々と爆発するのだ。

色とりどりのキノコ雲が、次々と花が咲くように舞い上がるシーンは、「博士の異常な愛情」を思わせなくもないが、かなり悪ノリの感がある。まるで幼稚な精神年齢の監督が、好き放題に映像で遊んでいる風にしか見えず、嫌悪感さえ生まれる。

もちろん、訓練仲間で、最後まで残った女性キングスマンの新人がヴァレンタインの衛星を爆破するというシーンも一方で展開し、非常にスピーディでサスペンスフルなクライマックスなのだが、さすがにいただけない部分は、そのキノコ雲である。

とはいえ、それ以外の部分はとにかく面白いし、この後のエピローグで、すっかりキングスマンになったエグジーが、冒頭のハリーよろしく、カフェで大暴れしてエンディング。面白いし、楽しめる。

ちょっと悪ノリしすぎなければ、相当面白い娯楽映画に仕上がったろうにと思うけれど、マシュー・ボーンの才能はここまでなのかもしれません。