くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「向日葵の丘1983年夏」

kurawan2015-09-30

こういう貧相な物語をよく作るものだなどと、偉そうな考えで見ていたのが前半、後半、常盤貴子扮する大人になった多香子が故郷に戻ってきて、高校時代を過ごした懐かしい場所を巡って、クライマックスへ流れるあたりは、なかなか良い。というか、出てくる涙をこらえる感じになった。監督は太田隆文

前半の高校時代をもう少しコンパクトに、いや、もうちょっと工夫を入れて映像にすれば、とっても良い映画になったかもしれない。全く、映画というのは作り方によるものだとつくづく思うのです。

多分、この脚本を、それなりの人が再考し、それなりの人が、演出すれば、それは、また良い作品になるだろう。映画というのはそういうものです。

物語は実にシンプル、高校時代の同級生みどりから、東京で売れないシナリオライターで生活している多香子に手紙が届く。病気で余命わずかになり、もう一度会いたいのと、かつてのことを謝りたいというのだ。

高校時代、仲良しで、ロサンゼルスにいて日本に帰っていたエリカにも話すが彼女はいかないという。

こうして映画は高校時代、映画好きな少女三人が、映画館主に借りた8ミリカメラで自主映画を撮るというか物語へ進むのだが、細かいセリフの中身が全て飛んでいくのである。

三人がバラバラになるきっかけの多香子の父の封建的な考えの部分が弱いし、貧相なエピソードだし、三人が仲が悪くなるという展開も今ひとつ迫真にかける。1983年、バブル景気真っ最中に向かう日本の世相のエピソードも、ただのエピソードの羅列に過ぎず、そのそれぞれが、弱い。演じる三人に当時生きたという役作りができていないのだ。

だから、この過去の部分が非常に貧相に見える。8ミリ映画を作っていた自分自身の過去もかぶさったが、何か弱いのだ。

そして、現代。多香子は、かつての出来事で溝ができた父に再会、上映できなかったフィルムを上映して、地元に人々も含め、懐かしい旧友たちも集まって大団円。なのだが、ここも、セリフで見せすぎた演出が実に適当。

まぁ、粗はたくさんあるのだが、良い映画は、そういう粗を払拭して、一つにまとまっているものである。ところが前半が弱いために、前半と後半のクオリティーが完全に分かれてしまった。良いものになったかもしれない一歩手前の一本、そんな感じの映画でした。