くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ドローン・オブ・ウォー」「アメリカン・ドリーマー 理想

kurawan2015-10-02

ドローン・オブ・ウォー
もっと軽い感じのアクション映画かと思っていたら、結構シリアスな人間ドラマだった。とにかく2010年の実話を基にしているのであるから、シリアスなはずである。監督はアンドリュー・ニコル

ラスベガスの近郊のアメリカ軍基地、そこから遠隔操作でドローン爆撃機を操作する仕事をしているトミーが主人公である。

高度3000メートルの上空から、アフガニスタンタリバン関係者をミサイル攻撃する。当然、無人爆撃機であり、アメリカ本土で手を下すトミーたちに危険はない。それゆえに、まるでゲームのように攻撃される描写が実に怖い。

そんな緊張感と、罪悪感の中で精神的に耐えきれなくなっていくトミーとその同僚たち。酒に溺れ、妻との関係もギクシャクしてくるトミー。

モニターに映し出されるアフガニスタンの様子、そこに一人の兵士が女をレイプする場面が映る。しかし、その兵士は彼らのターゲットではないために、傍観しているだけしかできない。さらに、CIAからの命令だけで、攻撃をする展開へ進み、トミーたちはますます、その矛盾に苦悩する。

時折、トミーの住む閑静な住宅街を俯瞰で捉えるカメラ、さらに空を見上げるトミーのカットが、基地でのモニターの画面とかぶって、寒気がするほどに恐ろしいのである。もしかしたら、テロリストたちも自分たちを見下ろしているのではないか。その恐怖がさらに、基地での操作に異常さを生んでいく。

テロリストを殺戮するために、不可抗力として一般人を当然のように殺戮する上層部の命令。

時折、外のカットが挿入されるが、じっと主人公を見上げる構図もまた微妙な怖さを醸し出す。

ある日、耐えられず、本部からの命令を無視したトミーは監視任務に格下げさせられるが、そこで、あの女をレイプする兵士を見つける。そして同僚を外に出し、一人の、その男を勝手に爆撃した後、車に乗って、妻が去って行った先のリオに向けて走ってエンディング。

アンドリュー・ニコルらしい見上げるカットに、まるで大空からの衛星の視点のような見下ろすカット、さらにモニターに映るアフガニスタンの映像、現実ではあるが、これが現実なのだと思うと、本当に寒気がするのだ。そして、それを冷淡に捉えたこの作品の視線もまた、真に迫って恐ろしい。なかなかの秀作だった気がします。


アメリカン・ドリーマー 理想の代償」
久しぶりに良質のドラマでした。これという大きな事件が起こるわけではないのですが、非常にしっかりとした演出で見せる展開が、実に地に着いた物語として見ていることができる。監督はJ・C・チャンダーです。

映画は主人公をアベルが、これからある取引をするところへ向かうところから始まる。一方で一台のトラックがハイウェイの入り口で、2人の強盗らしい男に襲われる場面が交錯する。

アベルは、予てから念願の、港際の土地を手に入れる契約をしに出かけてきたのだ。そして、有り金すべてを叩いて手付を払い契約、残りを一ヶ月後という約束にする。しかも、一ヶ月後に殘りの金が段取りつかなくても手附金は返さないという。

こうして物語は始まる。時は1981年。アメリカに移民してきて、わずか20年ほどで、地元のオイルビジネスで成功したアベルだが、トラック組合の連中から妬まれ、さらに、彼が運転手に銃を持たせないという主義から、反感を買っている。

物語は、一ヶ月後に控えた本契約を期限に、その一ヶ月の事件を描いていくというのが本編。この設定が、実にうまい。

冒頭で襲われた男は、仕事に復帰するも、気が弱いために、アベルに隠してピストルを持ち、次襲われた時、発砲してしまう。その事件と、それまで様々な疑惑もあって、銀行は融資を中止、途端に資金繰りが逼迫する。

アベルは、様々なところに融資を依頼し、さらに、なぜ、次々トラックが襲われるのかという真相を追求する話、さらに妻アナとの溝などが描かれていく。

そのどれもが、特に劇的な展開ではないのだが、非常にリアルに描かれるので、見ていて飽きてこない。

そして、最後の最後、地元のギャングまがいの知り合いに金を頼むが、その直後、アナが、密かに利益を隠蔽していて、その金を使おうと提案。さらに盗まれていたオイルの行く先と真犯人も突き止め、ギリギリで契約は成立、土地を手に入れる。こうして、さらに前に前進したアベルに、彼を追求していた検事が、自らの利益も考え、これからのことを意味ありげに語ってエンディング。

人間ドラマ、社会ドラマの秀作と呼んでも良い一本で、一見、何もかもクリーンを信条として生きてきたアベルに、どこか、現実的な闇も裏に存在するリアリティが実にうまい。

竹を割ったような、勧善懲悪の世界観ではないところが、非常にリアルで、その意味で、なかなかのドラマだったと堪能して見終わることができました。