「赤い陣羽織」
これほおしろい、傑作時代劇とはこういうのを言うのだろう。監督は山本薩夫。とにかく俳優陣がしっかりしているので、それぞれのキャラクターが明確に色分けされ、その中で、それぞれの味を出しながらのコミカルな展開がとにかく大人のユーモアになる。コニカラーシステムと呼ばれる撮影方法で撮った作品で、今回デジタル復元されたものである。
甚兵衛とせんという夫婦、ただ仕事熱心で真面目な甚兵衛を伊藤雄之助、そして、女房のせんが器量良しなので、代官やら庄屋やらが言い寄ってくる。代官は養子で妻に頭が上がらず、代々その家に伝わる真っ赤な陣羽織をきて、偉そうに闊歩するが、とにかく臆病もの。
巧みにかわしていたせんだが祭の夜、太鼓の音のなっている時は無礼講で、夜這い自由という騒ぎの中で、代官たちの策略にハマりかけ、ことは大騒動になるのがクライマックス。
キリッとした代官の妻を香川京子が好演し、物語をビシッと締める。
茶化したコメディ作品であるが、ただただ、その展開がユーモラスで楽しいから、嫌味がない。
最後の最後も、香川京子の妻が見事な采配で場をまとめる下りも爽快。これが娯楽映画だと言わんばかりの名編の一本を見た感じがします。
「幸福」
シルバーカラーという、市川崑が好んだ色調を抑えたカラー作品の復元版を見る。
一人の女性中井のクローズアップから映画が幕をあける。市川崑が好むオープニング。物語はエド・マクベインの原作を元にした推理サスペンスである。冒頭の女性には刑事のフィアンセ北がいて、その彼に電話をしていたのだ。
仕事の忙しさにかまけて、そそくさと電話を切るがその直後、彼女は殺されてしまう。
ここにもう1人、仕事にかまけて妻に去られた刑事村上がいる。物語は、殺人事件を追う一方で、この2人の刑事の人間ドラマを描いていく。さすがに、細かいディテールを丁寧に演出していく市川崑の手腕は見事で、一瞬の隙もない。
さらに、シルバーカラーと呼ばれる、色彩を抑えた映像が実に上品な作品に仕上げていくから素晴らしい。
村木忍の美術らしい、あばら家のアパートのセットなども見応えがあり、平凡な推理ドラマで終わらない独特の色合いを楽しめる一本でした。
「バクマン。」
こういうオーソドックスなセオリー通りのストーリーが今でもあるのだなと感心したのが第一印象。でも、その映像化は確かに面白い。デジタル処理して漫画の描き割と実写を駆使し、スローテンポとハイテンポを繰り返すリズム感は明らかに監督の才能だと思います。面白かった。監督は大根仁。
前作の「モテキ」は、個人的に好きではないので、というか一般的な評価ほど思えなかったので、今回も半信半疑でしたが、さすがにこの監督の感性は、安定した気がするに、認められると思います。
映画は、漫画家志望の秋人が、天才的な画術の最高を漫画家に誘うところから始まる。決心がつきかねる最高に憧れの亜豆から励まされ、一気に漫画家の道へ。目標は少年ジャンプに連載されることとと、天才高校生漫画家エイジを追い抜くこと。
まず、連載が決まる前半から、エイジとのバトル戦、最高が倒れ、手塚賞の仲間が手伝いに来て大団円のクライマックスと、非常に古風な展開である。この甘さを嫌う人もいると思うけど、これはこれでいいかなと思う。
漫画の書き割りを挿入することで、ハイテンポなリズムを生み出すのですが、今ひとつ佐藤健が良くない。飄々としたなかに、人並み以上の勝気さ、というキャラクターですが、その背景の漫画家の叔父が死んだというトラウマが非常に弱いので、神木隆之介の秋人のキャラに完全に食われる。作品全体としては、よくできているのですが、ちょっと残念。でも、亜豆役の小松菜奈は可愛かった。
とはいえ、突っ走るような迫力の面白さは堪能できる一本、面白かった。