くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「君とひととき」「私の殺した男」「ニノチカ」

kurawan2015-12-16

「君とひととき」
エルンスト・ルビッチ監督の代表作「結婚哲学」を自らリメイクした作品で、ストーリーの流れはほとんど同じである。

例によって、ポンポンと展開するリズミカルな物語と映像に、引き込まれる面白さを堪能するが、計算され尽くされた感がないわけではなく、その隅々まで行き届いたテンポの良い演出にエルンスト ・ルビッチの魅力を再認識します。

二組の夫婦のそれぞれの浮気心が生み出すラブコメディ。アメリカ映画らしいといえばそうなのですが、今となれば古さを感じてしまうのも否めない。

とはいえ、映像テンポのオリジナリティを十分感じる作品でした。


私の殺した男
エルンスト・ルビッチ監督には珍しい反戦、シリアスドラマである。第一次大戦終了の1年後のパリから映画が始まる。パリで、ドイツ人のワルターを殺したことを悔いてやまない主人公のポールは、、司祭の勧めでドイツまでワルターの家族を尋ねる。ところが、いざ言い出せなくなり、ただの友人だという告白をしたために、両親からも、そして、フィアンセのエルザからも慕われてしまう。

こうして物語は、息子の死に絶望する家族の心の拠り所としての存在になるポールの姿、恋人の死から解放されていくエルザの姿を描いていく。

ラストは、いたたまれなくなったポールがエルザの真相を話すが、エルザは両親には言わないままでいるよう訴える。

憎むべきは戦争であり、人間ではない。その根本的なメッセージをしっかり伝えるとともに、人間賛歌にストーリーを収束させたエルンスト・ルビッチの手腕が光る一本でした。


ニノチカ
エルンスト・ルビッチ監督の代表作の一本、確かに面白いし、映画としてのクオリティも、素晴らしいが、製作年度の時代色が思い切り前に出ている感じでした。

パリのとあるホテルに、ロシア人が三人やって来るところから映画が始まる。コミカルな導入部から、物語はどんどん核心へ流れる。ロシアの窮乏を救うために手持ちの財産としての宝石を売却にやってきた三人。ところが、本来の持ち主は、この国の貴族の持ち物で、その女性の愛人の伯爵が絡んできて、裁判沙汰になる。それはダメだとロシア本国から乗り込んできたのが、主人公の堅物官僚ニノチカ

と、一見硬い物語だが、散りばめられる共産主義への皮肉と、偏見をコミカルに挿入し、自由主義に感化されていくニノチカたちの姿を映し出していく。

当然、伯爵とニノチカが恋仲になり、そのラブストーリーを中心に物語は展開。しかも、本来の持ち主の貴族の策略で、ニノチカは一旦ロシアに帰るも、伯爵の計らいで、トルコへ脱出、めでたしめでたしとなる。

ビリー・ワイルダーが脚本に参加し、平凡なコメディにならずにどこか、思想的な空気も漂うあたり、エルンスト・ ルビッチは単なるコメディ映画得意の映画監督ではなかったと思わせる。

ただ単に、リズミカルな映像で終始するのではなく、微妙な流れとウィットを交えた演出は、まさに名作の呼び名を納得させる一本で、本当にルビッチにハズレなしといわしめられました。