くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「天使」「寵姫ズムルン」「真珠の頚飾」

kurawan2015-12-22

「天使」
これはものすごい傑作でした。ここまで脚本が緻密に書き込まれていると、一回見ただけではその細かいディテールのうまさを思い出しきれません。至るとことに張り巡らされる伏線と、無駄のない構成で組み立てられたストーリー。絶妙とも言える、洒落たセリフの応酬。これが傑作でなくてなんだろう。

エルンスト・ルビッチスタイルの妙味というのはこれほどかと唸ってしまいました。

飛行機に乗っている一人の女性マリアのカットから映画が始まる。パリについてロシアの亡命貴族が運営するサロンに足を向ける。そこへやってきたのがアンソニー。そこでアンソニーはマリアに一目惚れしてしまう。そして、一時の恋に燃えた二人は、食事をするが、公園で別れてしまう。アンソニーはマリアをエンジェルと呼ぶも、名前は知らないまま、マリアはいずこかへ去るのだ。

マリアがロンドンに戻ると、外交官の夫との幸せな夫婦生活。そこになんの問題もないのだが、ある日、マリアはアンソニーをロンドンで見かける。オペラグラスで見かけた風なのに、アンソニーの姿をスクリーンに見せなかったり、アンソニーがバーカー卿の家に来た時、妻の写真盾を見たはずなのに、写真に写っているマリアを映像としてみせなかったり、様々な細かい演出トリックが素晴らしい。

しかも、アンソニーとマリアの夫バーカー卿は戦友だったことから、物語は複雑になっていく。いや複雑になっているのは見ている私たちだけというのも見事なものである。

バーカー卿に呼ばれてアンソニーがやってくる。アンソニーはバーカー卿にパリでの天使の話をする。そして、バーカー卿がジュネーブに仕事で発とうと飛行機を予約したら、なんと彼の留守にマリアがパリに行っていたことがわかり、アンソニーが言っていた天使とはマリアのことだと理解する。

そして、ジュネーブに行く途中でパリに寄ったバーカー卿は、サロンでマリアに会い、一方、アンソニーもマリアと会う約束をしていたのでその場にいる。
ここから、粋な大人のラブストーリーとして締めくくるラストシーンまでは、言葉に書けない見事さである。これが名脚本というものだろう。もちろん、マリアとバーカー卿は、思い出の地ウィーンへ旅立ちエンディングなのだ。

天使を見分けるポイントがマリアの自作のピアノ曲で、アンソニーがバーカー卿のところに来た時は、弾かないが、バーカー卿がアンソニーの自宅に電話をかけた時、電話口からアンソニーが弾いているピアノがマリアの曲だとわかる演出、あるいは、マリアが夫との朝食で、夫婦喧嘩もしない夫婦なんてという会話を伏線に、ラストで、マリアとバーカー卿がサロンで口喧嘩をするクライマックスなどこかに、全く唸るほどに見事なのだ。

ウィーンについてくるなら駅で待っているというバーカー卿、玄関口で、さっと横に寄り添うマリアのカットと腕を組むシーン。これが大人のラブストーリーの大団円である。

さらに、バーカー卿の自宅の執事三人のコミカルなシーンの挿入も素晴らしいし、ウィットの効いたセリフで、笑いを誘うさりげない遊びも、非の打ち所がなく計算されている。もう、数え上げたらきりがない傑作中の傑作というのがこういう映画だと思う。全く見事だった。


「寵姫ズムルン」
サイレントではあるものの、日本語字幕がなく、英語のみというのは、さすがに、わかりづらかったが、物語は単純だし、なんとなく物語を追うこともできたので、これはこれで良かった。エルンスト・ルビッチのサイレント期の名作の一本である。

ポンポンと流れるストーリー展開の面白さ、コミカルに演出される俳優の動きの面白さ、細かく切り返すカットの連続でリズムを生み出すうまさなど、やはりエルンスト・ルビッチならではの映画だと思います。

老大使の寵愛を受けるズムルンは、旅商人の若者に、恋をし、老大使の心をそらせるために、旅芸人の女を迎え入れるという物語。だいたい見ていて理解できたからあっていたようです。

確かに、その名作たる所以をちゃんと理解しているのかは、自分でも怪しいですが、めったに見れない一本を見た感じで楽しめました。


「真珠の頚飾」
エルンスト・ルビッチは製作にまわり、フランク・ボーゼージが監督した作品。宝石泥棒を主人公に、ほのかに生まれるラブストーリーを交えたソフィスティケイテッドコメディ。本当に洒落た一本である。

自動車エンジニアのアメリカ人トムが、上司に休暇を申請している場面から映画が始まる。一方、泥棒組織の主人公マデリンは、高額な真珠の首飾りを盗むべく、著名な精神科医の妻と宝石商の妻を巧みに演じている場面へ移る。そして、コミカルな導入部から、トムもマデリンもスペインへ車で疾走する場面へ。道中ふとしたトラブルで知り合い、税関で、首飾りが見つかると判断したマデリンはトムの上着のポケットに滑り込ませる。こうして本編が始まる。

さすがに、監督が違うので、ちょっとテンポが微妙に良くないところもないわけではないが、それでも、次々と前に進む物語は、とにかく飽きさせない面白さである。

やがて、いつの間にか、マデリンはトムに惚れてしまうが、マデリンのボスたちは首飾りを換金するためにもう一役演じてもらわないといけないので、トムを追い払おうと奔走する。

しかし、二人の想いは固く、首飾りを取り返し、トムとマデリンは宝石商に返却、めでたく結婚でエンディング。

ちょっと甘い感じがしないわけではないが、これが映画である。夢を見れなくて、リアリズムだけの追求のみでは観客は寂しすぎると思います。古き良き映画全盛期の一本かもしれませんが、見終わって、いい気持ちで映画館を出ることができました。