演技経験のない四人の女性を主演にして描く日常のさりげない風景。キネ旬のベストテンにも入賞した317分の作品を見る。監督は濱口竜介である。
青空のカットから映画が始まり、六甲山の続くケーブルカーがトンネルを抜けるシーンに続く。トンネルを抜けると四人の女性が乗っているカット。このオープニングがうまい。山頂へ着いたものの、あいにくの雨。四人は今度一緒に有馬温泉に行く約束をする。
物語はここから四人のそれぞれの日常を切り取り、交互に描きながら、後半、四人で、重心を極めるみたいなワークショップに参加、その後の打ち上げで、四人の今抱える悩みが表沙汰になり、ドラマが動き出します。
うまいのは、四人の日常を描くカットリズムの組み合わせと、四人揃ってのシーンのバランスである。不思議なテンポがこの監督の感性の良さを見せて切れるのはなかなかである。そして、第一部は、一人の女性純の離婚裁判シーンで終わる。そこに他の三人も傍聴している。
そして第二部は、そのまま裁判の場面からスタート。といっても、果たして分ける理由はなく、劇場側の入場料徴収のための休憩時間である。
純たちは、有馬温泉に行き、そこで純はわかれば、裁判はどんどん不利になる中、彼女は失踪。それぞれ他の3人にも、何がしかの問題や不安材料が起こり始めるのがこの中盤になる。このあたりになると、セリフの端々に、なかなかの名セリフが挿入され、場面の組み立てのうまさが際立つとともに、出演者のキャラクターがそれぞれくっきりしてくる。つまり脚本のうまさが、表に出始めて、映画になってくるのである。
桜子の息子が中学生ながら彼女を妊娠させたり、看護師のあかりの後輩との確執から骨折騒ぎ、医師との恋愛関係まで匂わせる展開、芙美の夫の仕事のことやら、夫婦関係の不安も表に臭い始める。物語の流れとしてはなかなかの出来栄え。
桜子の息子は彼女と駆け落ちしようとフェリー乗り場にいて、純と出会い、純を見送り第二部は一旦休憩へ。
画面は、桜子のアップから息子の妊娠騒動に相手の家に母親と謝りに行くくだりへ。そして、前半でさりげなく関わっていた男たちと桜子ら四人との関係が深まり、やがて、それぞれの夫婦関係が危うくなり揺れて行くクライマックスへ。
淡々と繰り返される会話の周辺に不安と微妙な揺らぎが見え隠れして、ラストは、それぞれの夫婦に亀裂が生じる一方で、なんとなく元に戻るかのような匂いを漂わせてエンディングになる。
確かに評価されるだけのことはあるオリジナリティある作品だと思います。前半のとっかかりのある様々な伏線から中盤の展開、後半のそれぞれの行き着く先を語る流れと、そして、ところどころに散りばめられる気の利いた練られたセリフの数々もなかなかでした。
長尺な作品ですが、最後まで見せてくれた点では面白かったというべきでしょうか?途中で描かれた何人かがラストに締めくくられず放っておいたのは意図的なものかどうかわかりませんが、クオリティの高い一本でした。