くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アメリカから来た少女」「離ればなれになっても」

アメリカから少女」

淡々と静かに進む映画ですが、いつのまにか主人公の心が変化していく様が見えてくるとってもいい映画でした。監督はロアン・フォンイー。

 

アメリカから台湾に戻ってきたファンイーと妹のファンアン、母のリリーが空港についたところから映画は始まる。母の乳がんの手術のために戻ってきたのだ。アメリカでの生活にすっかり馴染んでいるファンイーは何かにつけて反抗的な態度で両親を困らせてしまう。中国語についていけず学校でも成績は下位、しかもアメリカンガールと言われてのけものにされていた。唯一、幼い頃近所に住んでいた友達と仲良くしていたが、ファンイーと付き合うと成績が下がると友達の母に言われてしまう。

 

リリーの手術は成功したものの、術後の治療の副作用や、不安もあって常にイライラしていて、娘二人も次第に母を遠ざけるようになる。父は出張がちで自宅にいることも少なく、リリーに全てがかかってくることも苛立たせる原因だった。

 

ファンイーは、アメリカにいた頃乗馬をしていて、仲のいいスプラッシュという名の馬を懐かしむ日々だった。母への不満はネットカフェで自身のブログに書き込んでいたが、その投稿を学校の先生が見つけ、弁論大会に出てみないかと言われる。弁論大会で優勝したらアメリカに戻して欲しいと父に頼むファンイー。

 

ところが弁論大会を明日に控えた日、妹のファンアンがSARSの疑いで入院することになり、ファンイーも自宅待機になってしまう。これまでの不満が爆発し、両親にも当たり散らした末、ネットで見つけた乗馬クラブに一人向かう。そこで、スプラッシュに似た白馬に声をかけ一緒に外に出ようと誘うが馬は言うことを聞かない。そこで初めて、ファンイーは生活が変化したことを受け入れる。そしてファンイーはパトカーで連れ戻される。

 

心配していた父が彼女を迎える。翌朝、リリーに電話が入る。ファンアンはただの肺炎だったという。安心する家族。ファンイーはリリーをいたわり、耳掃除をして欲しいと甘える。しばらくして、父はファンアンを連れ帰ってくる。二階から見下ろすファンイーはファンアンに声をかける。こうして映画は終わる。

 

アメリカから台湾にやってきた少女ファンイーの不安な心、それは、母が死んでしまうのではないかという怖さと、台湾に馴染めない自分との葛藤でもあった。そんな彼女が、次第に心がほぐれていき、両親のさりげない言葉や行動で、優しさを思い出していく様がとっても心地よい。ラストのセリフにファンイーの全ての思いが込められているように思いました。いい映画でした。

 

「離ればなれになっても」

めちゃくちゃに良かった。四人の若者の人生を交互に交差させながら描く青春群像という感じの作品で、ストーリーテリングが上手いのか、混乱することなく、それぞれの物語は、入れ替わろ立ち変わり交錯していく流れに二時間以上もあるけど引き込まれてしまいました。ラストの処理も美しいし、画面が映画になっている。とっても素敵な人間ドラマを堪能できた感じでした。監督はガビリエレ・ムッチーノ

 

花火の音から画面は新年を祝う花火を見ている一人の男ジュリオの姿に変わる。傍に娘がたち、室内から呼ぶ声に振り返って映画は1982年、ローマに遡る。ディスコでしょうか、ジュリオ達が騒いでいるが外で暴動が起こったらしいと野次馬になって外に飛び出すが、閉め出されてしまう。暴動に巻き込まれそうになる途中一人の若者リッカルドが撃たれて倒れる。駆け寄ったジュリオとパオロが病院へ担ぎ込み、三人の友情が始まる。パオロは当時インコを飼っていて、学校で一人の少女ジェンマと知り合い恋に落ちる。四人は束の間の青春を謳歌する。しかしまもなくしてジェンマの母が亡くなり、孤児になった彼女はナポリの伯母に引き取られることになる。

 

行きたくないジェンマはパオロの家に逃げ込み、体を合わせるが、ジェンマが、パオロと一緒に行きたいと言う誘いにパオロは断らざるを得なかった。諦めたジェンマは部屋を出て迎えに来た伯母の車に乗るが、それを追いかけてパオロのインコが窓の外に飛び出す。しかし、部屋に戻る際窓ガラスに激突してしまう。時が経ち1989年、ジェンマはナポリで新しい恋人ができたが、生活は荒れていく。時とともに、リッカルドは映画の世界へ、マルコは教師に、ジュリオは弁護士になる。ジェンマはたまたま彼氏と来たローマでパオロと再会する。パオロのことが忘れられないジェンマは、ナポリを抜け出しローマに帰ってくる。

 

パオロとジェンマはしばらく拠りを戻し幸せに暮らすが、まもなくしてジェンマはジュリオと交際するようになる。そんな頃、リッカルドはアンナという女性と結婚、幸せに暮らし始める。ジュリオは弁護士として順調な人生を歩み、ジェンマと結婚して幸せな日々になる。ところが、たまたま恩師が手がけていた悪徳代議士の弁護を引き受けることになったことから人生が変わる。力のある代議士の弁護を見事に勝ち抜き、その娘マルガリーターと知り合った。そしてマルガリータといい仲になったジュリオはジェンマを捨ててしまう。リッカルドは怒るものの、リッカルドとアンナ、その息子アルトゥーロの生活も危機を迎えていた。リッカルドは仕事がうまくいかず夫婦仲はギクシャクし始め、やがてアンナはアルトゥーロを連れて家を出て別の男性と生活するようになる。

 

アルトゥーロが成長するにつれて、リッカルドはアンナたちと疎遠になってくるが、アルトゥーロの16歳に誕生日に押しかけていったリッカルドはアルトゥーロから冷たくされてしまう。一方パオロは、専任教員の仕事が決まり順風満帆な日々を送っていたが、ある時、子供のレオナルドを連れたジェンマと列車内で再会する。ジェンマは、オペラ座のそばのカフェで働いているのだと言う。パオロはオペラを見に行く。そこで、かつて死んでしまったインコが天井に舞うのを見て、ジェンマがパオロの部屋を飛び出し、伯母の車に向かった後引き返して階段を登ってくるのを思い浮かべる。少女から大人に階段を駆け上るジェンマ、このシーンがめちゃくちゃに素敵。

 

そんな頃、ジュリオにも娘が生まれるが、夫婦仲は次第に溝ができ始め、引き継いだマルガリータの父の事業もうまくいかず家庭は冷め始める。マルガリータは外で浮気をするようになる。ジュリオは、成人した娘をかつて自分が育った貧しい半地下のアパートに連れていく。ある時、リッカルドは駅でジュリオと再会する。そして電話番号を交換する。

 

マルガリータの冷たい言葉に沈み込んだジュリオに電話が入る。かつて若い頃集ったカフェに行ってみると、リッカルドとマルコがいた。三人で懐かしみ、その後、マルコの家に三人で押しかけ、そこでマルコと結婚したジェンマと再会する。そして、カウントダウンの夜に集まろうと言い合う。

 

晦日の夜、リッカルドと息子のアルトゥーロ、マルコとジェンマの息子レオナルドらが集っていた。やがて花火が上がり始める。そんな頃、ジュリオの家でもカウントダウンパーティが行われていた。冒頭のシーンである。傍にきた娘と部屋に入る。次のカットで、マルコ達のところにジュリオとその娘がやってくる。それぞれの息子や娘が親しく挨拶をし、親達もお互いの人生を噛み締め思い出すように花火を見つめながら映画は終わる。

 

一見、混乱しそうなくらいに交錯していく四つの人生の物語ですが、たくみに重ね合わせながら描いていく手腕が見事で、もちろん若干のアラがないわけではないのですが、息子、娘まで絡ませていくラストの処理は絶品。オペラ座でのマルコの幻覚映像も拍手ものだし、とっても良い映画に仕上がっています。二時間以上あるのに本当に人生の機微に胸が熱くなってしまいました。