「オーケストラ・クラス」
なんの変哲も無い普通の映画だった。ありきたりの展開とありきたりの映像。それ以上に訴えかけるものも無い作品でした。監督はラシド・ハミ。
バイオリニストのシモンがとある学校の音楽教室の先生に赴任するところから映画が始まる。ただスポーツか音楽かを選ぶだけできた生徒たちは全くやる気がない。そんなクラスに、ツアーの合間、頼まれてやってきたシモンは戸惑う。
あとはよくある展開で、一人の少年アーノルドの才能を見出し、彼を中心にまとめていく流れとなる。ラストは、大ホールでの発表会で、観客の拍手で映画が終わる。
それぞれの生徒の生活背景の描写があるわけでもなく、シモンのドラマの描写もない。なぜこういう流れになったかという説明もなく、ありきたりの導入部からありきたりのラストになるので、非常に作品が薄っぺらくなっています。
もうちょっと工夫があってもいいのではないかという感じの映画でした。つまらないわけではないですが、あまりに普通すぎた。
「懺悔」
20年近くの歳月をかけて完成させた「祈り三部作」の一本。なるほどちょっとした傑作である。映像を駆使して、物語、心理描写を表現していく演出手腕に最初は戸惑うが、次第に引き込まれていく魅力がある。監督はジョージアのテンギズ・アブラゼ。
一人の女性がケーキにバラの飾りをつけているシーンから映画が始まる。そのケーキを窓から持ち出して誰かが配達するために運んでいく。カットが変わると真っ赤な花、この地の高名な市長が亡くなり、葬儀が行われようとしている。美しい花のカットに彩られた画面が見事である。
その夜、息子たちが、何やら犬の声がするので外を見るとなんと死体が庭に立てかけられていた。慌てて再度埋葬したが続いて二度も掘り返されてしまう。三度目、孫が犯人を鉄砲で撃ち、怪我をさせて逮捕、なんと犯人は女だった。
物語はここから、この犯人の女が裁判で、なぜ掘り返したかが語られていく。
映像は、この市長が当選する日に始まる。一人の少女、おそらく犯人の女だろうか。市長は当選後、次々と不当逮捕や弾圧を加えていく様子がシュールな映像の繰り返し、夢とも想像とも思えるシーンを駆使して描かれていく。
最初はこの演出についていけなかったが、次第にその演出スタイルが理解されて来ると、どんどんその映像作りに引き込まれて来る。
そして、女を撃った孫は、自分の祖父のこれまでの行動に嫌悪感を抱き、市長の死体を掘り返した女を有罪にしようとする父たちを罵るようになる。そんな息子に戸惑う父、やがて、孫は自殺してしまう。
女は異常者だから病院へ入院させるべきだという裁判の展開から一気に冒頭のシーンへ。女がケーキを焼いている外に一人の女がやってきて、この通りは教会へ続いているかと尋ねるが、教会へ続いていないと答える。その女が通りを歩いて向こうへ去って行ってエンディング。
ジョージアの歴史というより、旧ソ連の弾圧の歴史を暗に表現しているのか、それにしても、映像演出のクオリティはものすごく高い。様々なものに意味を持たせた創造力の素晴らしさはまさしく監督の才能のなせるものだと思います。映画史に残る一本とはよく言ったものです。なかなかの映画でした。