くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「のぼる小寺さん」「一度も撃ってません」

「のぼる小寺さん」

小品ですが、とっても爽やかな青春ムービーでした。仰々しい熱さもない淡々とした青春の一ページがとにかく素敵な映画でした。監督は古厩智之

 

ボルタリングをする主人公小寺さんのカットから映画が始まる。彼女を熱い視点で見る卓球部の近藤。卓球部といっても適当に選んで入っただけの近藤。隣で熱心に練習する小寺さんに目を離せない。映画はこの展開をオープニングに、クラスで印象の薄い四条、カメラ好きなありか、遊びまわるだけの今時女子高生の梨乃を絡めながら、淡々とした高校生活が描かれて行く。

 

しかし小寺さんの周りの人たちは、ひたすら登っている小寺さんを見ているうちに、近藤は卓球を一生懸命し始めるし、四条はボルタリングクラブに入部、ありかはこそこそ撮っていたカメラを堂々とするようになり、やがて小寺さんを撮影するようになる。また梨乃も遊びまわるだけの虚しさからネイリストへの目標を見つけて行く。

 

小寺さんがそれぞれのクラスメートと何故か突然会話して行く下りも素敵だし、学園祭のシーンで、子供が手放した風船を軽々と校舎を登って取る場面も良い。さりげないシーンの数々が本当に身近で親しみが湧くし、いつの間にかどんどん映画に引き込まれてしまいます。

 

そして、卓球大会でベスト8までいく近藤。小寺さんの試合に近藤やありか、梨乃らが集まってくる場面もさりげなくて良い。そして、ラスト、かねてから小寺さんに告白したい近藤は、部活の休憩時に炭酸飲料を持って小寺さんを誘う。自分を見て欲しいというだけの近藤に、小寺さんはその気持ちを察し黙って自分の飲みさしの瓶を近藤に渡す。近藤は小寺さんに背を向けて飲み干すが、小寺さんは背中合わせに座って、ゆっくり近藤に体を預けて暗転エンディング。

 

決して、ものすごい映画でも何でもないのですが、とっても素朴でとっても純粋で、とっても身近に感じてしまう大好きな映画に出会った感じでした。

 

「一度も撃ってません」

最初は物語がぼやけてしまった失敗作かと思いましたが、そうではなくてこれはハードボイルドを茶化しながらも徹底的にハードボイルドを描こうとした阪本順治監督の遊び映画だと分かりました。その意味で映画が一つの色彩を帯びていてとっても面白い作品だった気がします。

 

地下駐車場、一人の男が電話で何やら脅迫まがいのことを言っている。怪しいバイクが彼のそばを通る。その男が車を降りると、ワンクッション置いて一人の男が駆け寄りその男を撃ち殺す。

 

それから3ヶ月、殺されたのはゴシップ屋のジャーナリストらしい。その記事を見る一人の初老の親父市川。かつてハードボイルド小説を書いたものの一瞬だけの名声の作家である。妻は元教師でいかにも真面目な女性。

 

しかし、この市川には別の顔がある。夜の街、とあるバーで出会うのは元検察官で今や闇の組織との情報をやり取りして生きる石川、元ミュージカルスターのひかる。そしてマッチョでいかにも不気味ながら指の怪我で震えが来ているポパイというマスター。そんな店に入り浸りながら、歯が浮くようなセリフを駆使して御前零児と言う名で酒を飲む伝説のヒットマン市川がいた。

 

彼の担当編集者の児玉は定年を迎え、後輩の五木に市川の担当を引き継ごうとしていた。実は市川は、裏稼業で殺しを請け負う今西と知り合いで、今西の仕事を取材して小説を書いていたのである。

 

そんな時、石川が扱った事件でヒットマンに狙われる可能性が出てきたことがわかり、石川の仲間と目されている市川にも危険が迫る。一方、毎夜毎夜夜中に出かける夫の市川を不審に思った妻弥生は、密かに調査し、市川と親しくしているひかるの存在を見つけ、市川が入り浸るバーにやってくる。

 

さらに石川には脳腫瘍が見つかる。また市川らが集まるバーが今宵で店じまいすることになる。その夜、弥生はひかるに会いにバーにやってきた。その日、ヒットマンが市川を狙っていると石川に聞き、今西の仕事場から銃を持ち出す。今西はというと惚れた女と酒を飲んで、今宵は銃は使えないという。仕方なく、市川は撃ったこともない銃を持ってバーにやってくるが、その前に、組織が雇った凄腕の中国人ヒットマンがバーで市川を待っていた。

 

やってきた市川とヒットマンはお互いの銃を向け合って膠着してしまうが、そこにバーのマスターが中に飛び入る。そして、二人に銃など撃ったこともないだろうと銃を取り上げる。ヒットマンは実は日本人で、そそくさと逃げ出してしまう。

 

ひかると弥生はすでにすっかり意気投合している。市川、石川、弥生、ひかるはバーの閉店まで飲み店を出る。バーは最後の営業を終える。タクシーで弥生を家に送らせた市川は一人深夜の路地でタバコを吸う。映画はこうして終わる。まさに阪本順治のお遊びなのだ。だから面白い。お話はぼやけてしまって、結局、組織の話や、編集者たちのエピソードはそっちのけで消えてしまうのだが、映画が一つの色に染まっている気がします。面白い作品でした。