「ザ・ブリザード」
実話を基にした作品だが、物語の組み立てが実によくできていて、素直におもしろく楽しめました 。監督はクレイグ・キレスビーです。
映画は、嵐の中真っ二つになって遭難したタンカーペンドルトン号の悲劇と、そのタンカーに残った30数名の乗組員をたった四人で救助に出かけた沿岸警備隊の物語です。映画は、この物語の主人公バーニーが、友人と女性をデートに誘いに来た場面から始まります。やがて、誘った女性ミリアムとバーニーは1年後に婚約、物語はここからペンドルトン号が嵐の中、溶接した部分が破損して真っ二つになる展開へと進みます。
船首が沈没し、船尾に残されたシーバートたちは近くの浅瀬に乗り上げて救助を待つために、手製の舵を作り、嵐の中奮闘する。一方、沿岸警備隊のバーニーは上官に結婚の承諾をもらうためにあくせくしている。そんな時、たまたま桟橋に出た男が沖に遭難しているペンドリトン号を見つける。そして、別のタンカー救助に出払っていた沿岸警備隊は、残ったバーニーを中心に四人で救助に出かけることになる。
この港には外海に出る前に砂州があり、この嵐にこの砂州を超えていくのは無謀という。そんな中、バーニーは持ち前の感で荒波を乗り越えていく。この緊張感あふれる場面とスペクタクルな映像、一方で、座礁させようと奮闘するペンドルトン号の中での人間ドラマが迫真の迫力で迫ってくる。二つのサスペンスを見事に融合させたストーリーの組み立てが実にうまいし、バランスもいいので、どっちがどっちともならず、と言って、どちらも気を抜かない演出で、スクリーンから観客の迫ってくる様は見事である。
無事外海に出たものの羅針盤をなくし、暗闇の中タンカーを探す救助艇、刻一刻と沈み始めるペンドルトン号のシーン、そして発見、荒波の中の救助シーンへとクライマックスを迎える。
町ではバーニーの婚約者ミリアムが待つ場面が描かれるが、ほとんどが海上シーンで、その緊迫感で全編を引っ張る感じです。
無事帰還したバーニーたちを迎える町の人々のシーンから、実在の人々の写真によるエンドクレジットへ続くが、素直に最後まで引き込まれてしまいました。
難を言うとバーニーが、いかに海の知識に長けているかという人物描写がやや弱いし、シーバースらのドラマも、若干深みに欠けると言わなくもない。また、ミリアムがやたら勝気な存在で描かれるが、それにかぶせて、かつてバーニーが救助し損ねた人たちのエピソードはあおざなりになったところがあるのがやや描写不足。
とはいえ、娯楽映画としては十分に完成された一本だったと思います。面白かったです。
「雪之丞変化」(市川崑監督 デジタル復元版)
何度か映画化されている物語で、今回の作品は伊藤大輔と衣笠貞之助が脚色したものを和田夏十がシナリオに起こしたものです。徹底したライティングによる光と影、そして計算され尽くされた構図による演出で描く市川崑の傑作の一本。まったく素晴らしい映画です。
映画が始まると、江戸一の女形である中村雪之丞の舞台から物語が始まる。桟敷席に仇である男二人と娘が一人映る。画面端に割り込むように仇の姿を挿入し、雪之丞がこれから行う仇討ちの説明がナレーションされます。
人物にスポットのように光をあてるとともに、横長の画面を効果的に使った構図、さらに、刀の光がキラリと光る演出など、随所にこだわった映像作りがとにかく様式美の世界を私たちに見せつけてくれる。
ただ、ストーリーテリングのテンポは、解説に書かれるほどの卓越したように見えないのは、映像にこだわり切った監督の意図がマイナスに働いたのかもしれません。
とは言っても、まるで芝居の世界のごとく描かれる物語が陰影を多用した美しいモノトーン(見事なカラー演出ですが)に語られる様はまさしく絶品の極みです。長谷川一夫の一人二役も見もの。ただ、個人的には「細雪」の美の方が好きですね。とは言っても日本映画の傑作の一本を見たという充実感に浸れる映画でした。