くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「リップヴァンウィンクルの花嫁」

kurawan2016-03-30

「リップバンヴァンウィンクルの花嫁」
12年ぶりの岩井俊二監督作品がでした。いやぁ、まだまだ健在、これは傑作でした。作劇のうまさ、展開の絶妙さ、そして、彼ならではの現実離れした世界への誘い、特に脚本が素晴らしい、どれもが岩井俊二の世界ではなかったでしょうか?確かに、かつての透明感は影を潜め、現代という新しい時代の汚れはないわけではありませんが、長回しの流麗なカメラワークと、散りばめられるクラシック音楽、さらに、舞台となる場所のちょっと小洒落た演出の使い方で、見事に映像として昇華している。

映画はネットで知り合った男性と待ち合わせをする主人公七海のカットから始まる。臨時教員をする彼女は、仕事でも上手くいかず、結局、ネットで知り合った田舎の旧家の男性と結婚することになった。今時という導入部だが、いかにもこの七海のキャラクターがバカ女に見える。このキャラクター演出もうまい。

バイトしていたコンビニでかつての友達に会い、結婚式に自分の親戚が足りないと新郎側に言われ、知り合った友達の知り合いで何でも屋をしている人を紹介してもらい、、結婚式に、代理出席の親族を頼んでまずは結婚式を挙げる。その代理業を仕切っているのが安室という男。

ところが、結婚して間もなく、リビングで女性のピアスを発見した七海は、安室に夫の浮気相談を依頼、さらに、突然、夫の浮気相手の女の彼氏という男が家にやってくる。何の疑いも持たず家に入れる七海、全くどんだけバカやねんと思ってしまう。

アルバムで浮気相手の女を指摘され、そのまま今度はその男の指定するホテルに出かける。結局男は女と別れたので、七海に体の関係を迫り、清算しようという。ほんまに七海はアホなのだ。そしてシャワーに入って時間稼ぎして安室に助けを求める。結局、これも安室の仕業だったのだ。

さらに、その時の写真や動画までアップされ、夫の実家の法事に出かけた七海はそこで夫の母に離婚しろと迫られ追い出される。

実は、七海に迫ってきた男は別れさせ屋で、結婚の時から気に入らなかった七海を夫の母が雇ったらしいとのちに安室は説明する。

あれよあれよと、不幸のどん底に落ちていく七海に、的確に援助するようにフォローしていく安室。安ホテルで暮らし始めた七海に結婚式の代理出席のバイトを斡旋し、そこで七海は同じくバイトで来た真白と知り合う。

一方安室はさらに豪邸のメイドのバイトを七海に斡旋、月に百万円という報酬に、不安ながら了解し、行ってみればものすごい豪邸で、そこでメイドを始めるが何ともう一人メイドがいて、真白だった。

こうして真白と七海の生活が始まる。

ある日、真白が高熱で仕事に出られず、エージェントらしい女がやってくるが、真白はAV女優で、この豪邸を真白が借りていると言われる。安室の仲介で真白は友達を探して欲しいと頼まれ、七海を斡旋したのだ。しかし、じつは七海は末期癌で、最後に一緒に死んでくれる友達を探していた。

この真白のネットのハンドルネームがリックヴァンウィンクルだった。

豪邸に飼われているペットはどれも猛毒を持つクラゲやサソリや毒貝のようなものだった。

ある日、二人で街に出た時真白がウェディングドレスを見ようと言い出し、そのまま二人で購入、ドレスを着たまま二人は眠りにつくのだが、翌朝、葬儀屋を伴った安室がやってくる。

二人はてっきり死んだものと思っていたが、七海は生きていた。真白の葬儀を行い、かつての代理家族になった人たちも集まってくる。何とか真白の実家を見つけ、遺骨を持っていくと、母が、ポルノ女優になった娘なんてと悪態を吐くのだが、自ら全部脱ぎ、酒を飲んで号泣するシーンに思わず涙が溢れてくる。この母を演じたリリィが抜群。

東京に戻った七海は新しい部屋を借りる。そこへ安室が粗大ゴミになる家具などを届け、引越し祝いをする。一人ベランダで景色を見る七海の姿は、これまでのメソメソしたバカ女ではなく、清々しい笑みを浮かべてエンディング。

リックヴァンウィンクルは、小説の主人公ですが、これに絡めて描かれる七海の物語は、とにかく、前半の引きつけるような極端なキャラクター演出と、後半の、みるみる現実離れした童話のような展開から、クライマックスのリリィのシーンへ、観客の視点を離さない。何と三時間もあるのだが、見事と言うほかない。

前半は極端な斜めの構図や長回し、スローモーションで、不思議な世界を描き、そのまま、後半に流れていく。かつての透明感こそないものの、さすがに岩井俊二は健在だと思う。素晴らしい一本でした。良かった。