くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「市子」「ほかげ」「Winter boy」

「市子」

非常に暗い題材の作品ですが、ラストはなぜがなんとも言えない切ない感情が伝わって来る。たくさんの登場人物を描いているにも関わらず、芯になっている物語がぶれないのは脚本の良さと演出の慣れということでしょう。自身の舞台を映像にしただけのことはある仕上がりでした。映像作品としても佳作かなという感じです。良い映画だった。監督は戸田彬弘

 

景色のインサートカットの後、ある部屋の一室、テレビでは生駒山中で白骨死体が見つかったというニュース、何やらカバンに荷物を詰めている一人の女性市子の姿から映画は幕を開ける。そこへバイクに乗った青年長谷川が帰って来る。市子はベランダを超えて荷物を取ろうとするが取れず、そのまま逃げてしまう。そこへ長谷川が入って来る。実は長谷川は市子と三年一緒に暮らしていて、昨日プロポーズしたのだ。市子は喜び、長谷川が贈った浴衣を嬉しそうに手にする。

 

そして約一週間後、長谷川は後藤という刑事と話していた。長谷川は市子を探し始め、支援団体に聴取に行った際に、かつて市子と親しかったケーキ屋に勤めている吉田という女性を教えてもらう。その情報を元に長谷川は後藤から市子の情報を得る。

 

小学生の頃、月子という少女がいたが、クラスメートによれば彼女は市子だと思っていた。身体検査で胸が大きくなったことでからかわれていた梢を助けた市子は裕福な梢の家でケーキをご馳走になる。梢は市子に色々買ってやろうとするが市子は万引きしたおもちゃなどをお礼に差し出して嫌われてしまう。梢が市子の家に行った際、介護用のトイレなどを目撃した事をのちに刑事に話すことになる。

 

高校時代の市子は宗介という彼氏がいたが、いつも市子のことを見ている北秀和は、ある時、駄菓子屋で市子と出会い親しくなる。市子は花火が好きだと秀和に話す。ある日、市子を家に送った秀和は市子が父親らしい男に家に引き入れられる現場を見る。小泉というその男は市子の母なつみの愛人なのか元夫なのからしかった。秀和は家の裏から部屋を覗き、市子が小泉に乱暴されかかる現場から、小泉が市子に、市子の妹月子の事で苦労させられた父の話を聞く。

 

市子の妹月子は筋ジストロフィーという障害があった。生駒山で発見された白骨死体は月子だと警察は断定する。捜査の中、おそらくDVの夫がいたなつみは結局市子の出生届が出せず、市子は月子の名前で小学校に行っていたらしいと突き止める。月子は小学生くらいの年齢で行方がわからなくなり、突然梢が3年生の時に月子が入ってきたのだという。

 

高校の頃、秀和が、夜再度市子の家に行くと、市子は小泉を殺していた。現在、長谷川は後藤と秀和の家に行き、そこで市子が来ていたらしい気配を知る。後日、長谷川は再度秀和の家に行き、市子が小泉を殺したらしい過去を知る。秀和は小泉の死体を線路に横たえさせたが、いつのまにか市子はいなくなったのだという。

 

ケーキ屋でバイトをしていた市子はそこで吉田という友達ができる。吉田は市子に、一緒にケーキ屋をしようと言い、市子に夢ができるようになる。そんな市子を秀和が発見し、市子に詰め寄るが、市子は自分にも夢ができたからと秀和と別れる。

 

ある夏の日、月子の看病を自宅でしていた小学校の頃の市子は、母親を仕事に送り出し、月子の生命維持装置を外して殺してしまう。帰ってきたらなつみは市子に礼を言う。この話を、なつみを和歌山まで追いかけた長谷川が知ることになる。

 

一方、市子が出ていった秀和の部屋に冬美という女性が訪ねてくる。市子に一緒に自殺しようと誘われ、保険証を持っていた。まもなくして冬美に市子から電話がかかり、秀和と二人できて欲しいと言う。二人が行くとそこに花火をしている市子がいた。

 

長谷川はなつみと別れ、フェリーに乗る。やがて、和歌山の海岸に車が落ちたと言うニュースが聞こえる。乗っていたのは二十歳代の男性と女性だったという。おそらく冬美と秀和だったのだろう。秀和は市子を守ろうとしたのだ。過去のある祭りの夜、長谷川は露天で市子と出会う。そして焼きそばを食べ、市子は側を通った浴衣姿の女性を可愛らしいと呟く。

 

鼻歌を歌う市子のシーンで映画は終わる。市子は冬美の戸籍を得たのか、長谷川は市子に再会して結婚することになるのか、それぞれの余韻を残してエンディング。

 

過去と現在、そして市子に関わった様々な人たちを交錯させて描いていくのだが、全く混乱せずに市子という一人の戸籍のない女性の半生が描写されていく様は見事で、細かい伏線も無駄なく生かされている。もしかしたら市子は悪人なのかもしれないが一方でささやかな夢を持てた普通の女性だったのかもしれない。その意味で、いろいろ心に残る良い映画でした。

 

「ほかげ」

期待通りの充実感を味わえるなかなかの力作。圧倒される映像表現と演技に胸苦しさを覚えるのですが、登場人物それぞれが心の奥に悲壮感とかすかな希望と絶望が混在している様に圧倒されてしまう。戦後間も無くを舞台にしているとはいえ戦争を前面に描いているわけではなく生きるということの意味を問い詰めていく展開に打ちのめされてしまいました。監督は塚本晋也

 

一軒の荒屋のような部屋で一人の女が寝ている。そこへ中年の親父が飛び込んでくる。どうやら、物を盗まれその犯人を追いかけてきたようで、女の姿を見てその場を去る。台所の隅に少年を見つけた女はその少年を追い出してしまう。しばらくして、男が一升瓶を持って入って来る。男は女に酒を渡し、女を少し抱いて、また客を連れて来るからと去る。どうやら女は売春しているらしい。

 

しばらくして復員兵がやって来る。なけなしの金で女を抱き、翌朝、明日も来たいので金を稼いでくると言う。そこへウリを持った少年がやって来る。自分もここで過ごさせて欲しいと言う。女は盗んだ物はいらないと言うが、復員兵はウリを使って料理を作る。次の日も復員兵は来るが金は稼げなかったと言う。復員兵は元教師で、教科書を持っていて少年の算数を教えたりする。少年は女に言われて仕事をしに行き、野菜を運んでくる。少年によれば復員兵は仕事など探していないと言う。

 

女は夜の仕事を辞め、三人はささやかな家族のように生活を始める。しかしある夜、異様な雰囲気の復員兵は女を襲ってきて乱暴を働く。少年を投げ飛ばすが少年は肌身離さずカバンに持っていた銃で復員兵を脅して追い払う。女は銃を取り上げて缶の中に入れ、少年に服を作ってやって昼に一緒に働き始める。そんなある日、少年は傷だらけになって帰って来る。どうやら危ない仕事をしたらしい。さらに別の男に銃を持ってきたら働かせてやると言われたと言う。女は少年を追い出す。

 

まもなくして、売春斡旋の男が戻ってきるが、女の顔を見て驚く。どうやら女は病気になったらしい。この時代なので梅毒か何かだろう。一方少年は一人の男とどこかへ向かっていた。男がたどり着いた家には幸せそうな夫婦がいた。男は少年にその夫婦の男を呼び出すように言う。男は少年の銃を手にして、連れてきた男に向ける。どうやらかつての上官で、終戦時に非道なことをさせられたようで、銃で手足を撃つ。男は少年に汽車賃を渡して、戦争は終わったと言って去る。

 

少年が女の家に戻ってくるが、女は襖の奥から入って来るなと叫ぶ。病気になったのだと言う。そして、銃は置いていってちゃんと仕事をして働けといって追い返す。少年はかつてかっぱらいをした男のところで殴られながらも食器を洗い始める。男は少年に心を許し、食事を与え、わずかな金を払う。少年は、貧民窟でかつての復員兵を見つけ、かつて復員兵が持っていた教科書を渡す。少年は露天で女の服を買おうとするが、彼方で銃声が聞こえる。推測だが女が自殺したのではないかと思う。少年は服を買うのをやめて去っていく。こうして映画は終わる。

 

とにかく少年が抜群に素晴らしく、脇役も存在感が半端ではないために映画全体に恐ろしいほどの迫力がある。決して大作ではないが、戦後の混乱と人々の心の葛藤、そしてささやかな希望をさりげなく放り込んだ作品として見事に昇華されています。なかなかの秀作でした。

 

「Winter boy」

凡作の極みの映画だった。的を絞られていない展開で、父親が亡くなったことで嘆き悲しむだけの、甘ったれの若者のダラダラしたストーリーに参ってしまう映画でした。しかも、ゲイ設定にする必要を感じない物語作りは、ただの今どき映画にしたいだけと言うのみで芸がなさすぎで最悪。絵も普通だし音楽センスも普通だし見るべきもののない一本だった。監督はクリストフ・オノレ

 

主人公リュカが一人台詞で語る場面から映画は幕を開ける。母の車に乗ってどこかへ向かう中で、過去を語り始める。父と仲が良かったリュカはこの日も父と車に乗っている。無茶な割り込みにあって路肩に逸れてしまうハプニングの後、いつものように高校で授業を受け、寮で寝ていたリュカは突然起こされる。家に帰って来たリュカは父が事故で亡くなったことを知る。

 

親戚も集まり、パリから兄のカンタンも戻ってくる。やるせないリュカは自室で号泣してしまう。不安なリュカをカンタンはパリへ誘う。リュカはパリのカンタンの部屋で同居人の黒人リリオと出会う。ある時、リリオが白人を部屋に連れ込んで金をもらって体を売っている現場を見て、その客の男とリュカは連絡先を取り交わす。一方でリリオに何気なく惹かれていた。

 

リュカはリリオの客を部屋に連れ込んだがそこへカンタンが帰ってきて、カンタンはリュカを追い返す。仕方なく母の元に戻ったリュカは、母の車で父の事故現場へ向かう。冒頭のシーンである。そして、その帰り教師をしている母を学校へ送り届けたリュカは車の中で手首を切る。精神的に不安定なリュカは精神科の病院に入ることになる。

 

リリオがリュカを見舞いにやって来るが、リュカはようやく父の死による不安定さから脱していた。リリオを送り出した後立ち寄った母にリュカは、もう大丈夫だから退院の申請して欲しいと母に言う。母はカンタンに相談し、リリオの連絡先を聞く。リュカがリリオに動画を送りたいのだと言う。その動画は、ギターを弾くリュカの姿だった。こうして映画は終わる。

 

リュカや母の一人台詞シーンが繰り返されるが、どう言う状況なのかわからず、突然叫ぶリュカのシーンを何度か繰り返すものの展開は全然前に進まない上に、ただの甘ったれにしか見えないままダラダラ進んでなぜかエンディング。しかもゲイのベッドシーンが美しくないのでどうにも見どころのない映画だった。