くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「山河ノスタルジア」「ヴィクトリア」

kurawan2016-05-12

「山河ノスタルジア
ジャ・ジャンクー監督作品なので、かなり構えてみたのですが、これは本当に良い映画でした。今までのジャ・ジャンクーの印象を完全に払拭した感じのとっても素敵な映画だった。もしかしたら、今のところ今年のベストファイブの一本に入れたいくらいです。

映画はスタンダードサイズから始まります。時は1999年、20世紀最後の春節祭、主人公のタオがダンスを始めるところから映画が始まります。

軽快な音楽に乗せて、周りの人たちと楽しく踊る姿。彼女には幼馴染のリャンズーとジンシェンという友達がいる。リャンズーは炭鉱で働き、ジンシェンは実業家で成功している。二人ともタオに思いを寄せていて、この3人の若い日の恋の物語が語られる。時折、静かな田舎の景色に混じって、ディスコで踊り狂う場面などを挿入し、変わりゆく中国を演出する。

ジンシェンはタオにプロポーズ、リャンズーは二人の元から去っていく。やがてタオにはダオラーという息子が生まれる。

画面はパナビジョンサイズになり、時は2014年。ジンシェンはタオと別れ、メルボルンに移り住んでいる。タオは一人、故郷に残り生活をしている。リャンズーも結婚し子供を授かるが、自分は胸の病で、その療養も兼ねて、故郷に戻ってきてタオと再会する。寝たきりで咳をするリャンズーの姿。

そんな折、友人の誕生祝いにと出かけたタオの父親が、行き先で急死、タオはジンシェンに連絡し、息子ダオラーを戻してもらう。しかし、ダオラーはタオに接しにくい上に、古い中国のしきたりにも戸惑う。ことあるごとにタブレットで育ての母と話をする姿に苛立つタオ。

タオはダオラーに中国の家庭料理の飲茶を食べさせ、自宅の合鍵を渡し、各駅停車の列車に乗って、ジンシェンの元に送り返す。その途上、次第にダオラーはタオには心を開くようになるのだ。

時は2025年に移る。画面はワイドスクリーンに変わり、オーストラリアで暮らすダオラーとジンシェンの姿。ダオラーは中国語を忘れてしまい、英語で会話をしている。それがもどかしい上に映画が身につかなかった父親のジンシェンとは溝ができている。しかも、ジンシェンの事業も今ひとつの様子である。

ダオラーは、自分には母親もいないと学校で普通に話を、中国語の教師ミアと恋仲になる。しかも、ミアの姿にかすかに残るタオの面影を認めるのだ。そして、9歳の時中国に戻った時のかすかな記憶がデジャヴェのように蘇り、ミアと車に乗っていて、サングラスをかけたミアに、幼き頃タオに車で送ってもらっった姿を思い起こしたりする。

ミアに促され、中国に行くように勧められるが、旅行代理店で親子に間違われ、店を出るダオラー。そして思わず「タオ」とつぶやく。

カットが変わると中国のタオの家。かつてダオラーに食べさせた飲茶の料理をしているが、ふと名前を呼ばれた気がして振り返る。もちろん誰もいない。若き日に飼っていた犬はすでになく、新しい犬を散歩に連れ出すタオ。

雪が降ってくる。ジンシェンやリャンズーと遊んでいた空き地に立ち、やがて1999年の春節祭の時の冒頭のダンス曲が流れてくる。それに合わせてゆっくりと踊り始めるタオ、暗転エンディング。

もう素晴らしいの一言である。母と子供、友人、自然、故郷、何もかもが普遍であるのに、なぜか変化を感じてしまう人間の物語を見事な叙事詩として描いたジャ・ジャンクーの演出力は素晴らしい。

細やかなエピソードの数々に描かれる時の流れ、国の行く末、人々の心の変化、どれもが、胸に迫るし、心を揺さぶる。音楽の選曲もうまい。真っ赤な色彩を強調した前半部から、次第に落ち着いた色彩に変わる中盤から後半への流れも見事。本当にいい映画だった。


「ヴィクトリア」
全編140分ワンシーンワンカットのサスペンスが話題で売りの作品だが、全編ワンシーンはヒッチコックが「ロープ」で試みたことであるし、しかも、「ロープ」はフィルムであったことが画期的であった。今回、デジタルカメラなのだから、テクニカルな独創性はない。しかし、冒頭のダンスシーンに始まって、ラストの夜明けに消えていくヴィクトリアのカットまでのリズム感の作り方のうまさは評価してしかるべき一本だったと思います。監督はセバスチャン・シッパーという人です。

派手な曲がかかり画面が映ると、踊り狂う若者たち。その中の一人の少女ヴィクトリアにカメラが寄っていく。三ヶ月前にマドリードからやってきた彼女は、まだろくにドイツ語も話せない。踊り疲れて外に出たところで、ゾンネというドイツ人の若者とその仲間と出会う。

深夜の若者たちのノリでどんどん映像が進む。カメラはひたすら手持ちで追いかけていく。正直この振り回しカメラが嫌いなので、しばらくすると疲れてくる。

とある地下に車を運転して到着した彼らは、そこで、いかにもな男から、銀行強盗をして来るように命令される。なぜかゾンネの仲間のボクサーという男が、このいかがわしい男に借りがあるようで、仕方なくヴィクトリアも巻き込んで、銀行強盗へ。そしてまんまと金を奪うが、そのまま踊りに行って、追い出されて、警察が追ってきたので撃ち合いになる。そこで、ゾンネとヴィクトリアだけが逃げる羽目になり、ヴィクトリアの機転でホテルに逃げ込むが、ゾンネは撃たれていて、息をひきとる。ヴィクトリアは金をつかんで、そのまま夜明けの街に出てエンディング。

わずか12ページの脚本だけであとは即興を含めた偶然の映像というのは、個人的にはあまり受け入れたくない製作方法ですが、前半のめまぐるしい映像から、中盤の銀行強盗、さらに逃亡劇のクライマックスと、映像のテンポはしっかりできているのが驚くべきことである。その意味で、この映画をまんざら脇にやることはないかと思える映画だったと思うのです。好みかどうかは別にして、見る価値のある映画でした。