くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「最後の切り札」「海よりもまだ深く」

kurawan2016-05-24

最後の切り札
野村芳太郎監督、橋本忍脚本という典型的なサスペンス映画。素直に面白いし、楽しめる一本でした。

ひとりのおおがらな男が車に乗る。その後を追いかける新聞記者らしい二人のシーンから映画が始まる。そして、ある宗教団体本部前で降りた大柄な男の写真を撮って映画が始まる。

続いて、二人の男が、宗教団体の長に丁々発止で掛け合っている。どうやらこの二人は、巧みに詐欺を仕掛けて、金をむしり取る仕事をしている詐欺師まがいの男たちであるようだ。こうして、この二人が、巨大な宗教団体を相手に次々と仕掛けた詐欺で金をせびる下が描かれる。

しかし、宗教団体の長にはバックに政界を狙う大物がいて、上には上にいるという感じで、やがてこの二人のうちのリーダー格の男が最後の大勝負に出ようとしたのを、見事に欺かれ、結果死んでしまう。しかし、さらにもう一歩仕掛けていた主人公の画策に、宗教団体の長も殺される。

びっくりするほどの傑作ではないが、やはりこのコンビの映画は面白い。巧みに張り巡らされる伏線と、次々と展開するストーリーの面白さ、そしてアッという大団円で締めくくる鮮やかさは本当に魅力である。

安定した野村芳太郎の演出に、主役級の役者が次々と端役で登場する豪華さも見所の映画で、今や見る機会もなくなった娯楽映画を楽しんだ感じでした。


海よりもまだ深く
これはいい映画でした。こんな台本が書けたら素敵だろうになぁと感心してしまう映画だった。しかも、出演者それぞれの演技のテンポが唸るほどにうまいから、クスクスという笑いが映画に絶妙のリズムを生み出していきます。見事です。監督は是枝裕和です。

映画は実にシンプル。
台風が近づいてきて、主人公の良多の母の家で軽妙な会話をする良多の姉のシーンから映画が幕をあける。

一昔前に小説で賞をとったために今も小説家を目指しているかの主人公の良多。ギャンブル好きが高じたのか、妻の響子と離婚、月一度、息子の真悟と会うのが楽しみな毎日。探偵の手伝いのような仕事をしているが、相棒と巧みに計って、依頼人から金を巻き上げるような姑息な男である。

響子には恋人ができたらしく、その動向を調査したりというような未練がましい男でもある良多。

この日も真悟と会う日なのだが約束の養育費を持ってこない良多に呆れる響子。良多はなけなしの金で真悟にハンバーガーを食わせ、スパイクを買ってやり、母の家に連れて行く。そして、そこに響子も呼ぶのだが、その日は台風で、みんなで母の団地に泊まることになる。

細かい会話の隅々に散りばめられるユーモアがとにかく素晴らしい。しかもそのユーモアを見事にセリフに生かす役者の演技も見事。その演技を全体にまとめる是枝裕和の演出も絶妙。

泊まった部屋で、良多と真悟が人生ゲームをしたり、母がかつて隠したへそくりを夜中に良多が探したり、台風真っ只中の公園に良多が真悟を連れて行き、滑り台の穴の中で話をしたり、昼に買った宝くじをみんなんで雨の中探したり、何気ないエピソードの散りばめ方が秀逸なのです。

結局、翌朝、良多は、響子と真悟と別れて、何事もないように日常に戻るのだが、タンスから見つけた硯を質屋に持って行ったら、いい値段がついたり、そこで良多の初版本にサインしたり、何気ない物語が展開するのもいい。

団地の部屋で、良多と響子の会話、滑り台の中での良多と真悟の会話、冒頭の母と姉の会話、など、いたるところに二人の会話劇が挿入されている。練りに練られた脚本の素晴らしさに唸ってしまう映画でした。いいなぁ、こういう秀作という感じの一本は、そんな作品でした。