くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あすなろ物語」「夜の片鱗」「馬鹿まるだし」「乾いた湖」

kurawan2016-05-31

あすなろ物語
堀川弘通監督のデビュー作で、黒澤明が脚本を書いた作品。ご存知井上靖の代表作の一本である。

主人公の鮎太の少年時代から始まり、三年後三年後と繰り返し、三人の女性との関わりを通じて描く、井上靖の自伝的な物語である。

曲の挿入や、シーン転換のつなぎなど、黒澤明の脚本の色が前面に出た作品ですが、どこか、切ない中に見え隠れする女の悲劇が見事に画面から伝わってくる。

岡田茉莉子、根岸明美久我美子の三人の女優のそれぞれの存在感が主人公の心を揺り動かす展開それぞれが実に美しく、くっきりと色分けされている。

岡田茉莉子扮する冴子は愛する恋人と心中して果ててしまう。根岸明美扮する雪枝は主人公に強くあれと教え、自分は嫁いでいく。久我美子扮する玲子は家のために、自らが犠牲となることを受け入れて主人公の元から去っていく。しかし、それぞれの女性との関わりで、成長する鮎太の生き方が本当に美しいし、勇気付けられる。

原作の良さもあるでしょうが、黒澤明の脚本、さらに堀川弘通の演出が見事にコラボした秀作でした。はまる映画の一本ですね。


「夜の片鱗」
圧倒的な重厚感で描く中村登監督の傑作の一本という感じ。真っ赤なルージュのような赤が夜の街に滲み、染み入るような色彩演出が見事な映画でした。

一人の女芳江が夜の街に立っている。男が近づき、そのままホテルへ行くが、その男は芳江に、こんなことから足を洗うように諭す。そして、次の会う約束をする。こうして物語は幕をあける。

芳江は、数年前、女工をしていて、バイトがてら入っていたスナックで一人の男栄次と出会う。サラリーマンだと思って付き合い始めていたが、実はヤクザで、どんどんのめり込み、いつの間にか芳江は娼婦として夜の街に立つようになっていた。

その過去を語る芳江のシーンと、現在の男とのシーンが交互に描かれ、ほとんど夜の街の重くしいシーンで覆われていく。その深みのある映像が実に美しい。

やがて、栄次はふとしたヤクザの出入りで怪我をし、男として機能しなくなり、芳江に女のように尽くすようになるが、芳江はその存在に疑問を感じ始める。芳江に足を洗うように勧めた客は、芳江と結婚して欲しいと言い、次の赴任先へ一緒に行こうと誘う。

その約束の夜、芳江は栄次を刺し殺す。夜の街をさまよう芳江のシーンでエンディング。

見事な映像展開で全く時間を感じさせはい迫力はまさに傑作の存在感がある。栄次を演じた平幹二朗も見事、桑野みゆきも素晴らしい。語るべき日本映画の一本に出会った感じでした。


「馬鹿まるだし」
山田洋次監督初期の傑作をようやく見ることができました。原作があるとはいえ、なかなかの傑作。とにかくテンポが小気味好く、ポンポンとストーリーが展開していく様は、山田洋次ならではの感性ですね。さすがに、のちの男はつらいよシリーズの方が完成度は高い気がしますが、さりげなく挿入される叙情シーンが実に美しい。家の明かりが漏れる街並みの一瞬に心が和んでしまうあたり、さすがです。

主人公の安五郎が寺の軒で干物を盗んで食べているシーンに始まり、やがて、その寺に寺男として住むようになる。寺には美しい未亡人夏子がいて、この女性に憧れ男を貫いていくのがストーリーの中心になる。いわゆる「無法松の一生」である。

次々と偶然が偶然が呼び、どんどん男の名を上げていく安五郎に、次々と捲き起こる街の事件。やがて、一旦は落ちぶれたものの、最後の最後、ダイナマイトで立てこもった悪人を命がけで救出して、クライマックスを迎える。

丁寧に人物を描いたり、ドラマ性に重点を置かず、ひたすら、軽いノリで流れる演出のうまさ、その所々に見せる夏子への恋心を伴った人情ドラマが実にうまい。15年後、安五郎が死んだという手紙が来てエンディングを迎えるが、なんともいい映画だったなぁとしみじみ思える一本でした。

とにかく、夏子を演じた桑野みゆきが抜群に可愛らしく、すっかりファンになってしまいました。


「乾いた湖」
松竹ヌーベルバーグの旗手の一人篠田正浩監督の初期の傑作、しかも脚本は寺山修司である。

安保闘争真っ只中を背景に、権力闘争に反抗的な主人公の学生卓也を中心に、自堕落な生活を送る学生たちの物語。斬新な影絵のような演出やドキュメンタリータッチのカメラワーク、色彩演出など篠田正浩らしい映像表現がいたるところに散りばめられて見所満載の映画である。

ゴミが水面に流れているカットから、若者たちがボートの上で繰り広げる悪ふざけのシーンへのオープニングが見事。性に対するストレートな表現、主人公の部屋の壁のヒットラーなど、世の中への敵対心をまるだしにした演出、権力や金に対する執拗なまでの汚れた描き方、一方で、異様なほどのくそまじめさを見せる学生たちの姿など、ギラギラするほどのメッセージが見え隠れする。

金をばらまきながら、何をするあてもなく孤独に落ちていく会社社長のむすこや、就職に悩み自殺する学生、汚職の濡れ衣を着せられて自殺した父をにくみながらも、生活のために権力のある男に身を任す娘など、当時の日本社会のひずみがまざまざと描かれていく。

主人公の卓也は、安保に熱くなる級友たちに、デモなどで政治が変わるわけがないと客観的な視線を浴びせ、一方で、惚れた女のために無茶をする。爆弾を作り、野外劇場で爆発させたりもする。

結局、どこに出口も見えないままに、卓也は警察に捕まりエンディングを迎える。

とにかく、スタイリッシュなカメラ演出が所狭しと次々と出てくるだけでも見ごたえ十分ですが、そこに物語の内容の濃さが作品に厚みをもたらし、見事な一本に仕上がっています。若き日の岩下志麻も可愛らしいし、見ごたえのある映画でした。