くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「血は渇いてる」「猟銃」

kurawan2016-06-01

「血は渇いてる」
吉田喜重監督が描くマスコミへの痛烈批判のような社会映画の秀作、現代に通じるテーマ性が実に斬新な一本。

一人の男木口がピストルを手にして鏡の前に立つオープニング。外では、リストラを説明する会社社長の声。その人ごみの中にやってきた木口は、自分の命と引き換えに他の人をクビにしないでくれと叫び引き金を引く。しかし、すんでのところで、急所を外れ彼は軽症で済んだ。

ところが彼の存在を宣伝に利用しようと、生命保険の会社が彼を宣伝タレントに起用する。みるみる彼は時代の寵児となりもてはやされるが、これを良しとしない三流記者が彼を貶めるべく汚い手で迫ってくる。

かなり極端な描き方をしているのだが、自分の存在に驕りを持ち始める主人公の存在が、かえって痛烈なメッセージとなって迫ってくるあたりの構成が実にうまい。

ビルの外壁一面に貼られる主人公の顔のポスターの強烈なインパクト、悪いと分かりながらも社会に斜めの視線を向けて、ひたすら貶めようとする三流記者の存在感、彼に絡む女たちの欲望など、ドロドロした世界観が、作品を辛辣に染めていく。

結局、スキャンダルを起こした木口に生命保険会社は首を言い渡し、彼はもう一度ピストルを持ち重役室へ行きこめかみに当てるが今度は、命を落としてしまう。流れはこうなるだろうと想像がつく展開ながら、ギクシャクするほどの陰惨さがまともにスクリーンから伝わる。なかなかの秀作でした。


「猟銃」
これは恐ろしい映画だった。クライマックスの何分間か、みどりが彩子に8年間、夫の三杉との不倫を知っていたと告白してから、ほとんど動きもなく、女優二人のアップとカットの切り返し、さらにつぶやく言葉だけで、迫ってくる演出が寒気がするほどに、じわっと心理戦が伝わる様は素晴らしかった。監督は五所平之助である。

見合い結婚をしたみどりと三杉の温かいシーンから映画が始まる。みどりは従姉妹の彩子を写真で紹介する。一方の彩子は恋愛結婚した夫の門田との仲がうまく行かず離婚、しかし、突然一人の女が、門田の子供だからと一人の少女筒子を置き去りにして消えてしまう。

三杉夫婦のところにやってきた彩子を一目見た三杉は彩子に惚れてしまい、どんどん仲が深くなる。そして蒲郡のホテルに二人で出かけるのだが、なんと神戸の駅で、友人宅に行っていたみどりは偶然二人を見かけてしまう。そしてホテルまでつけていき、海岸を歩く二人をしっかりと見るのだ。

そして8年。三杉と彩子の関係は続いていて、みどりは、三杉との仲はすっかり覚める中、好き勝手な毎日を送っていた。こうして、不倫に悩む彩子とそれを知りながら黙っているみどりの心理ドラマが始まる。

鏡や、雪見障子からの中のカットなど美しい日本的な構図を多用しながら、静かながらも息苦しくなるようなドラマ展開は、恐ろしいほどの重圧感をもたらしてくれます。

そして、とうとうみどりが彩子に全てを告白、一方門田も別の女性と結婚したことを知った彩子は、すべては門田への執着心からだったことを知り自殺する。

これほど静かなドラマ演出なのに、迫ってくる迫力が半端ではない一本で、増村保造監督作品とは一味違った女のドラマを堪能することができました。見事でした。