くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あかね雲」「暗殺」「処刑の島」

「あかね雲」

篠田正浩監督全盛期の一本という感じです。素晴らしい映画でした。構図といいカット割りと言い、物語の展開といい、一級品の迫力がありました。

 

二人の兵隊が脱走する場面から映画が始まります。一人はなんとか逃げ果せ、いずこかへ去る。舞台は輪島の街に移ります。旅館で女中をするまつのは田舎に病気の父を残し、必死で働いている。しかし、なかなか稼ぐこともできず悩んでいるところ、たまたま缶詰の行商をしている小杉と知り合う。

 

いかにも誠実で、他の温泉客と違う小杉に純真なまつのはどんどん惹かれていく。姉のように慕う同僚の女性に誘われ山代温泉へやってきたまつのは小杉に言われるままに仲居の仕事にありつく。しかし、芸妓とほとんど変わらない仕事だった。

 

ある時、小杉に頼まれて小杉の客の男の相手をすることになり、まつのは初めて男を知る。明らかに小杉に利用されているにもかかわらず、小杉を信じ、いい人だと繰り返すまつのに次第に小杉の罪悪感が大きくなっていく。実は小杉は脱走兵で、やがて憲兵の手が迫ってくる。

 

憲兵は国の威信をかけ小杉たちを追っていた。そしてまつのの存在をきっかけに小杉の居所を突き止め、とうとう逮捕されていく。映画はここで終わるが、何があっても小杉を信じるまつのの幼気なさがなんとも切ない。そして次第に自らを恥じていく小杉の心の変化も見事。

 

美しい温泉町の街並みのカットの捉え方も見事な一本で、これぞ篠田正浩の映像世界と言わんばかりの映画でした。良かった。

 

「暗殺」

これはまた見事な傑作だった。ストップモーションや一人称カメラなどテクニックを駆使して描く主人公の数奇な人生の一瞬。時代劇の様式美のようで、型にはまったものはなく、自由奔放のアイデアの限りを注ぎ込んだ演出が素晴らしい。監督は篠田正浩

 

幕末、ペリー来航の時期に物語が始まる。巷で噂の一人の謎の浪人清河八郎。ずば抜けて剣の達人の彼を倒す算段をする上層部の面々。一方で彼を利用して尊王攘夷を果さんとする倒幕派の面々。

 

巧みにかわしながら、自らの才覚で大勢の浪人の頂点に立つも、その目的が果たされたと知るや、ある夜、暗殺されてしまう。

 

とにかくカメラ演出が昔ながらの時代劇の構図を取りながらもモダンで斬新。まさに篠田正浩らしい映像世界が展開する傑作でした。

 

「処刑の島」

これもまた斬新で、気迫溢れる見事な映画でした。絶海の孤島の壮大なカメラアングルと壮絶な主人公の生き様、さらに離れ島の隔絶された世界観が見事に絡み合った物語の空気感は絶品でした。監督は篠田正浩

 

裸の男女のカット、男の方が何かを思い出す。崖の上から大男が少年を抱え上げて投げ捨てる。このオープニングからまず引き込まれます。

 

主人公の青年はある離れ小島にやってくる。船の中で親しげに話しかけてくる男。謎を秘めたこの青年をいろいろ詮索する男。そして自分の妹の旅館に連れていくと、そこに先客でこの島の隣の孤島の学校の校長をしているという男がいる。

 

校長もこの青年をどこかで見たように思う。こうして、この青年の謎を詮索する展開の前半。そして、かつて感化院の少年たちがこの島で一人の憲兵上がりの男大嶽にこき使われていた過去が写される。

 

どうやらこの青年は三郎という名で、冒頭で崖から投げられた少年らしく、奇跡的に生き延びて大嶽に会いにきたようだとわかるが、それだけではないものが見えてくる。

 

てっきり殺しにきたのかと思われたが、実は大嶽は三郎が幼い頃両親を斬り殺した憲兵であり、その人物と同一人物か確認しにきたのだ。

 

そして、指紋を照合し、指をつめさせてその場を去って映画は終わる。とにかく雄大な景色のカットが見事で、隔絶された不気味さが物語に色をつけていく。とにかく全体に勢いのある映画で、最後まで釘付けになりました。