くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「午後の遺言状」「嫌な女」「クリーピー 偽りの隣人」

kurawan2016-06-27

午後の遺言状
確かにセリフの隅々、音楽の挿入、カメラ、映像、動きの一つ一つまで、洗練された美学に彩られている名編である。ストーリーの流れは渓流のごとく爽やかで、時にキラキラと木漏れ日を反射している。評価されてしかるべき名作ですが、終盤、時間を感じてしまった。脚本、監督は新藤兼人である。

老年の大女優森本容子が避暑のために別荘にやってくるところから映画が始まる。クローズアップを多用し、人物の細かい表情を捉えながら、舞台劇のごとき構図をとって映画を綴っていく。別荘の管理人柳川豊子と娘のあけみが出迎える。そこへ、友人の牛国富美江と夫の籐八郎がやってくる。富美江は痴呆であるが、籐八郎は献身的に介助している。

庭師の六兵衛が自殺をして、棺桶の釘を打つ石を残していたというエピソードから、容子も河原で石を決める場面、さらに別荘に飛び込んでくる脱獄囚のエピソード、あけみの結婚、富美江夫妻の心中事件を終盤に展開していく。

静かに流れる音楽や、さりげない効果音が映像にリズムを作り出しているし、小さなエピソードの繰り返しが、静かなテンポを生み出している。

やがて、あけみは容子の夫と豊子の間に出来た子供だと打ち明ける豊子。一時は感情的になる容子だが、直ぐにそれもまた一つと受け入れていく。

やがて、別荘を後にする容子に、宣伝写真を撮りたいという記者の求めに応じてにこやかに微笑む容子のショットから、豊子が、容子が準備した棺桶を打つ石を渓流に投げ捨てる水しぶきのストップモーションでエンディング。

富美江夫妻の心中事件あたりから流石に眠くなってきたが、あけみの結婚の古い儀式のショットなどは、さすがに新藤兼人らしい映像作りで美しい。

美しい信州の林を背景に浮かぶ老人たちの物語という感じで、見るべき日本映画の一本という映画でした。


「嫌な女」
黒木瞳初監督作品という一本。とりとめのないストーリー展開と、脇役がしっかり描けていない演出で、混沌とした作品に仕上がっていた感じです。冒頭の幼い頃の徹子と夏子のひまわりの服のエピソードのテンポ良い導入部はいいのですが、直ぐにリズムが悪くなる。

映画は弁護士になった徹子のところにいとこの夏子が慰謝料請求されたのをなんとかして欲しいとやって売るところから始まる。

天真爛漫な夏子と、地味で生真面目な徹子という呼応対象なキャラクターを面白く見せるべきところなのだが、二人の周りの元夫や被害者、などの人物が今ひとつ生き生きと見えてこないので、主演の二人さえも影が薄くなってしまっている。

さらに、ストーリーのエピソードの羅列が、どれも平坦で、今ひとつ一本筋の暢流れが見えないので、見ている側は迷ってしまうのです。

不必要なスローモーションもさることながら、セットで二つの部屋を作った書き割りシーンという半端な演出も、全体に一貫性がなく即興的でどうも面白い効果を生んでいない。

黒木瞳自体は凡人ではないと思うが、これまでのキャリアで見てきた様々をそのまま映像に使ってみたという感じの映画でした。


クリーピー 偽りの隣人」
黒沢清ワールド炸裂の身の毛もよだつモダンホラー映画だった。このまま終わったら、後味最悪やなと思ったが、なんとか一応のハッピーエンディングでホッとしました。

主人公高倉が容疑者の取り調べをしているが、個人的に犯罪心理学を趣味とするので、後一歩聞きたいと担当刑事に頼み込む。ところがふと目を話した隙に容疑者は人質をとって逃げる。交渉するも高倉の判断ミスか、人質を殺され、自分も負傷、犯人は射殺される。そして本編になる。

色彩を抑えたカラー映像と、独特のカメラワークで、時にがらんとした空間を捉えたり、斜めの構図を挿入したり、見ているものの不安感を煽りながら物語が展開する。西野の家の中の迷路のようなセット、さらに死体を処理する部屋の独特の室内デザインもうまい。

事件の後、気分を変えるために転居、自らも刑事をやめて大学で犯罪心理学を教えている高倉の元に、後輩の野上から、6年前の家族失踪事件の謎を手伝って欲しいと依頼される。

一方で、新しい家の隣人たちに挨拶に回るも近所の人は誰もよそよそしく、特に西野という家の男が不気味なくらいに変わっている。最初は高倉の妻康子も不気味に思うが、時折人懐っこく接する西野に次第に心を許す。見ている私たちは、明らかに普通ではにと思えるがあ、そこがスクリーンの中のフィクションという形を現実に実に見事に絡ませていく黒沢清の演出がうまい。

やがて6年前の失踪事件を追っているうちに、高倉の隣の西野の家の男とどこか共通点を見出し始める高倉。そして西野を調べた野上が資料を持って西野宅を訪れるが、直後隣家でガス爆発し、野上の遺体も発見される。

西野への不信が最大になる中、康子は次第に西野に心を征服されていく。いや不可思議な薬を注射されていく。西野の家の少女澪は西野は自分の父親ではないと高倉につぶやいたりもする。

そして、高倉は西野宅へ乗り込み、そこで、ぐったりした妻康子を発見、高倉を助けてくれた警部谷本も殺され、西野を追い詰めるも、すんでのところで、意識が朦朧としている康子に薬を打たれ、西野に拉致される。そして、西野は、新しい家族として高倉夫婦と、少女澪を連れて次の家に引っ越すことを計画。途中立ち寄ったドライブインで、連れてきた高倉の愛犬を撃ち殺そうとするが、自分ではできず高倉に拳銃を渡す。実は高倉はすでに正気に戻っていて、いや最初から康子と計画した芝居だったのか、受け取った拳銃で西野を撃ち殺してエンディング。

澪が自分の両親を殺すあたり、パックして埋めるあたりは園子温ワールドにも韓国映画にも共通するほどに不気味である。しかし、全体のトーンは黒沢清そのもので、ゾクゾクするほどの恐怖感を最後まで途切れない演出が絶品である。ただ、全編緊張しっぱなしというしんどさが逆にある映画だった。とにかく、怖かった。