「三本指の男」
東京フィルムセンタのみに所蔵されたレアフィルムを見るご存知横溝正史の「本陣殺人事件」の最初の映画化である。監督は松田定次である。何と言っても金田一耕助の助手で登場する原節子扮する静子が見ものである。メガネをかけていて、最初は気がつかないほどの存在感が一番の見所。
映画は70分ちょっとという中編で、今更言うまでもない知った物語である。
本陣を務めたほどの旧家に嫁ぐことになった女性、結婚式当日の深夜に離れで新郎とともに殺害される。それも密室殺人で、凶器となった包丁は庭に落ちていたという物語。
種明かしは要するに琴糸を使い、水車の動きを巧みに組み合わせたトリックである。
中編なのでそれほど間延びする事もなく、物語の発端から謎解き、ラストシーンまで無駄なく流れる。難を言うと金田一耕助を演じた片岡千恵蔵がやたらセリフが詰まるというところか。
たわいのないとはいえ、凝縮された演出で見せる推理ドラマの一品としてはかなりよくできた一本だと思います。面白かったです。
「北の三人」
こちらもフィルムセンター所蔵の一本、しかも、すでに半分ほどフィルムが現存しない。製作年度は昭和20年7月だから、戦争も末期である。監督は佐伯清である。
全巻残っていないとはいえ、人間ドラマの部分が完全にないという感じで、三人の女通信士が活躍する場面だけがうまくまとまって残っているので、細かい事を考えなければ物語としては成立している。
重要な任務を帯びた輸送機が、悪天候の中、北の飛行場へ降り立ち、次の目的地に飛び立って任務を遂行するという話で、そこに、三人の女通信士が活躍するといういかにも戦意高揚映画である。しかし、これもこの時代を写す鏡としての存在意義はあるし、大女優三人の共演者が見所の一本と言えなくもない。
やはり若い頃の高峰秀子は本当に可愛らしいなと思うのです。