くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「秋の理由」「灼熱」

kurawan2016-12-21

「秋の理由」
駄作ではないし、画面も非常に計算された色彩で美しい。物語も丁寧に展開するし、1つ1つに真面目に作られた感じがする作品ですが、全体に高級感を前向きに訴えてくる感覚が強く、物語をつかみきれなくなってしまった。監督は詩人でもある福間健二である。

「秋の理由」という本を最後に作家活動が休止したままの村岡に、ひたすらその才能を信じて次作を待つ宮本の場面から映画が始まる。枯葉や、壁の模様など、美しい日常のいたるところのカットが挿入され、きらきらひかる公園のシーンが実に美しい。

そんな宮本の前に、未来が見えるというミクという少女が現れる。また、宮本は村岡の妻美咲に恋い焦がれている。

この設定で、ストーリーの本編が進んで行くが、どこにどう向かっているのかが見えないままに、やがて、村岡は不安症的な病名で入院、そして退院後、新しく小説を書くからと宮本に告げて物語は終わる。

登場人物がそれぞれの人生を送り、それぞれの関係を保ち、何気ない日常として展開する様だが、明らかに映画としてのフィクション感は決して消えない。その空気がこの作品の色なのだろうが、それ以上に掴めないのは、福間健二という人の、凡人には測れない才能がにじみ出ているせいかもしれません。

とはいっても、映画なので、ストーリーテリングは必要ではないかなと思う。そんな感想で締めくくる一本です。


「灼熱」
カンヌ映画祭ある視点部門受賞作品らしい映画でした。クロアチア紛争というほとんど知識のない史実を背景に描かれる男女のラブストーリーを三つの時代に同じ俳優が描いている。スキッと物語にのめり込むこともなく、よくある話のオムニバスのようで、どこかれ繋がっているという流れで、その点だけを取り上げたら、普通の作品という一本でした。監督はダリボル・マタリッチという人です。

物語は1991年から1995年までのクロアチア紛争直前の年に始まります。 イエレナとイヴァンという二人の若者の恋の物語。ただの二人は民族が違っていて、しかもその違いから紛争が起こり敵同士となっている。その中で描かれる物語で、明らかに「ロミオとジュリエット」のような結末を迎え物語は2001年へ。

ナタシャとアンテの物語。最初のエピソードで死んだ人物の墓を訪れる下りなどもあり、何かしらの関連があるという設定。紛争が終わり、自宅に帰ってきたナタシャら家族の家を修理するためにやってきたのがアンテという職人。二人の間にはほのかな恋が生まれるが、お互いに過去に肉親を殺された確執が残っているという流れである。

そして物語は2011年、現代へ移る。主人公はマリヤとルカ。今時の若者二人のよくある物語が展開し、今やクロアチア紛争も過去のものであると言わんばかりに、前二話で描かれ亡くなった人物の墓の前をただ通り過ぎるだけの演出になっている。

わずか20年ほど前の紛争も今や過去と言わんばかりで、三つのラブストーリーとして紡いだ脚本の面白さはかいますが、やはりクロアチア紛争のリアリティを知らない私たちには、よくある映画の一本ということになってしまう。こういう映画はやはりそれなりの知識が必要だと思われる一本でした。