くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「家族の肖像」(デジタルリマスター版)「汚れたミルク ある

kurawan2017-03-21

「家族の肖像」(デジタルリマスター版)
ルキノ・ヴィスコンティの傑作を何十年ぶりかでしかもデジタルリマスター版で見たが、よく考えればロードショー公開の新品フィルムで見ているのだから、リマスター版にこだわることはない。やはり名作とはこういう緻密な完成度の作品を言うのだろうとつくずく思ってしまう。これこそ傑作であり芸術である映画の一本と改めて感動してしまいました。

家族の団欒の絵画のコレクションに囲まれて暮らす年老いた教授のもとに一人の女とその知人たちが二階に間借りして住み着くところから物語が始まる。

それまで静かに余生を送るべく過ごしていた教授の心も周りの環境も乱され始め、それが、老いに対する若さの反駁に絡めて、さらには貴族の没落と社会の変化を漂わせるあたりの見事な演出に舌を巻いてしまう。

部屋の中の調度品はヴィスコンティ映画ならではの本物が並び、美術の美しさに目を奪われるのですが、一方で、教授の心に忍び寄る幻影とも幻聴ともつかぬ不穏な音や映像が映画をさらには深い心の奥底まで引き込んで行きます。

何気ないカメラワークが見せる主人公の表情の変化と心の動揺、周囲の傍若無人にさえ見える隣人たちがいつの間にか教授の傍らで本当の家族として重なってくるあたりの終盤がすごい。

そして、コンラッドの死をきっかけに、教授自身も体調を崩し、やがてベッドの中で息を引き取って行く。エンドクレジットがゆっくりと上がってくる。これぞ名作の貫禄、才能がなせる完成品の迫力を堪能できる一本でした。初めて見たときの印象は変わりませんでした。


「汚れたミルク あるセールスマンの告発」
パキスタンで起こった実際の事件をもとにした作品ですが、告発映画という感じの一本で、事件を知るという意味では見る値打ちがありましたが、作品としては普通だったかなという感想の映画でした。監督はダニス・タノビッチです

一人の男アヤンがドキュメンタリー映画の取材を受けるシーンから映画が始まる。そしてそのドキュメンタリー映画を撮るに至ったアヤンの物語が描かれて行くというストーリー構成で展開して行きます。

国産の薬の営業をしていたアヤンは、なかなか成績も上がらない中、多国籍企業ネスレの営業職募集に応募、持ち前のハッタリで採用される。そしてみるみる成績をあげて行くが、ある日、正義感の医師から、販売しているミルクを飲んだ幼児たちが汚れた水でミルクを溶かしているので下痢で死んでいっているという話を聞く。

そういうう水道事情を改善できない政府が悪い気がするが、企業がそれを知って利潤追求で販売しているという実情から企業責任があるのではないかという流れになって行く。この辺りが今ひとつ説得力に欠ける描写になっているために、なんかしっくり来ないまま物語を追って行く。

正義感に燃えるアヤンは会社を辞め、企業責任を追求するために戦い始める。当然、企業側の圧力がかかり、苦しい戦いとなり、結局、企業がどう対応したかという結論の見えないままに映画終わる。

訴えたいテーマは見えるが、ちょっと脚本の練り方が弱いのが残念。後半が少しだれてしまうのはその弱さゆえだろう。その程度の一本だった気がします。