くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春婦伝」「殺しの烙印」「けんかえれじい」

kurawan2017-05-26

「春婦伝」
第二次大戦中中国に派遣された娼婦と現地の将校の物語を描いた恋物語ですが、なんとも鈴木清順監督の描く女はどうもいただけません。しつこいほどに感情表現がい大げさだし、うっとうしいほどにめんどうです。この作品については本来の美学もそれほど際立つものがないいわば彼の作品としては凡作の一本という感じでした。

中国へやってきた主人公の春美らの娼婦が、駐屯地である街に入り彼女は一人の無骨な将校の三上に惚れてしまう。

理想的な軍人をバカのように演じて行く三上の姿と、やたら権力で推してくる周辺の人物との兼ね合いがあまりくっきりと見えてこないので、三上のキャラクターが生き生きしてこない。結果として春美が恋心を抱く信憑性が弱くなった。

スローモーションやストップモーションを使った映像演出は見られますが、それ以上の面白みのある映像は見えないし、凡凡と物語が展開して、最後は二人で死んでしまってエンディング。

途中捕虜になった三上が中国軍に優しくされる場面、それでも日本軍に戻ってきて、突然恥を知って死んでしまいたいと言い出したり、なんとも一貫性のない描き方もちょっといただけない。

本当に、これという取り柄もない戦争映画という感じでした。


「殺しの烙印」
鈴木清順監督作品としてカルトムービーの傑作と呼ばれる一本。途中からはとにかくやりたい放題に清順美学が次々と展開、そのうちストーリーはどうでもよくなってきて、二度意識が飛んでしまった。日活が鈴木清順を追い出したのがわかるなんとも言えない珍品映画だったが、映画人なら一度はやってみたいだろうと思えるある意味傑作なのかもしれない


主人公の花田は殺し屋仲間ではナンバースリーにランクされるヒットマン。人間離れした技で次々と仕事をこなすのが前半。しかし、ふとした失敗から組織に命を狙われるようになる。

そしてやってきたのは幻のナンバーワンスナイパー。対峙して対決することになるが、どこまでがおふざけかどこまでかシリアスかわからないほどに、次々とばかばかしいほどの展開と、鈴木清順の映像美学が炸裂して行く。

止まるところもなく、そして行き着く先も見えないままに映画は進んで行くが、一体進んでいるのか止まっているのかさえわからなくなり、最後は同士討ちになってエンディング。思わず開いた口が塞がらないラストシーン。映画冥利に尽きる一本とはこのことをいうのだろうね。


けんかえれじい
学生時代以来だろうか、久しぶりに見直した鈴木清順監督の傑作。やはり素晴らしかった。テンポといい、展開といい、画面作りといい、ドラマ性といい、どれも引き込まれたら離さない魅力がある青春映画の金字塔に近い。

脚本の新藤兼人の力量も発揮され、鈴木清順の遊び心も随所に散りばめられ、主人公南部が青春の血潮をみなぎらせて駆け抜けて行く様に圧倒されます。これこそバンカラ映画、今時の映画と迫力が違いますね。

岡山の中学で生意気に毎日を送る南部がすっぽんの手ほどきで喧嘩の術を身につけ、やがて、陸軍の師範と喧嘩をしてしまって会津若松へ転校、そこでも喧嘩ざんまいをするが、岡山の下宿の一人娘美智子との募る恋心もいたたまれなくなって行く。

そして、ふとしたカフェで出会った一人の男こそ、ラストで二二六事件の首謀者となる北一輝だったというエピソードから、東京へ旅立つ汽車のシーンでエンディング。もう圧倒される。やはり傑作でした。