くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「草原に黄色い花を見つける」「オン・ザ・ミルキー・ロード

kurawan2017-09-19

「草原に黄色い花を見つける」
カメラアングルがとっても美しく、井戸とクレーンを使ったアメリカ的なカメラワークが流麗で、私的な作風が光る作品でした。ただ、脚本のエピソードの組み立てがもう1つ良くないので、途中で中心になる物語が外れるのがとっても残念。でも、なかなか見せてくれる映画でした。監督はベトナムのヴィクター・ヴーという人。

台車に乗った少年を男の子と父親が運んでいるシーンから映画が始まる。カットが変わってのどかな田園風景の広がる山間の山村に舞台が変わる。仲のいい兄ティエウとトゥエンが遊んでいる。ちょっとふざけたことでティエウが投げた石がトゥエンにあたり怪我をするが、トゥエンは大丈夫だからと父親に言う。

ティエウは近所の同級生ムーンのことが好きで、いつも気持ちが彼女に向いていた。彼女には病気で小屋に監禁されている父親がいるのだが、どうやらハンセン病らしいと言われる。そんある日、ムーンの家が火事に会う。なんとか家族は無事だったが、父親が行方不明となる。そして街で見かけたとい言うことで母親はムーンを残して街に行く。

ムーンはしばらくティエウらの家で暮らすことになり、ティエウは嬉しさを隠せないが、まだまだ子供のティエウには、どう表現して近づいたらいいのかわからず、一方の弟はただの友達という感覚で接するので、何かにつけ親しげに遊んでいるようにティエウには見えていた。そして、いつの間にかティエウはトゥエンに妬み心を持ってしまい、トゥエンが大事にしていたヒキガエルが、近くの老人に持っていかれるのも黙って見過ごしてしまう。

そんなおり、大雨で村が水没、タダでも貧しいこの村の作物は取れなくなる。

ある時、泥田の中でやっとトゥエンとムーンのために見つけた芋を持ち帰ってきたティエウは、仲睦まじく遊んでいるトゥエンとムーンの声を聞き、思わず後ろからトゥエンを棒で殴り倒してしまう。

トゥエンはその怪我をティエウがやったことにしないように念押しし、そのまま床についてしまう。貧しいこの家族に大きな病院に連れて行く金もなく、ただ、家で看病を続けたが、ある時、ティエウはトゥエンは座っているのを見つける。聞いてみると、お姫様がやってきて声をかけるので窓辺に行ってみると座れたのだと言う。

一方ムーンは母親が街の病院で見つけた父親と暮らすため街へ行くことになる。

トゥエンはやがて立てるようになり、そしてなんとか歩けるようになる。ティエウはその姫の正体を見ようと森の奥に行くと、そこにはかつてオートバイサーカスをしていた家族が王様と姫になって暮らしていた。サーカスをしていた妻は事故で死んでしまい、原因となった娘は気が触れて自分を姫だと行っているのだと言う。それに合わせ、父親は自分を王様だとして暮らしていたが、松葉杖でやってきたトゥエンとティエウの目の前で女の子がいじめられていて、たまたま突き飛ばされて倒れた拍子に正気に戻る。

全てが良い方向に流れ始め、トゥエンも少しずつ回復していき、ティエウはいずれ帰ってくると信じるムーを待つことにする。

揺れ動く思春期の一歩手前の少年少女たちの物語が、詩編のごとき美しい景色の中で素朴な物語として描かれる作品で、デジタルカメラの薄っぺらさはやや目立つものの、ハリウッド映画を彷彿とさせるカメラワークが実に目を惹く作品でした。


オン・ザ・ミルキー・ロード
エミール・クストリッツァ監督色全開の傑作でした。時に目を背けるような大胆な血のシーンが出てきますが、作品全体のテンポといい、自由奔放な時間と物語の構成といい、他では見られない見事なオリジナリティで見せる映像作品のうまさは絶品。

オープニング、実話を基にした寓話であると言うテロップが流れ始め、巨大な時計がある家に住むおばさんが、時計と大格闘して怪我をし、そこに娘が帰ってくる。このオープニングから圧倒されます。

そして、相棒のロバに乗り、一人のミルク運びの男コスタの場面から物語は幕を開ける。あとはもう自由そのもので次々と映像が溢れ出してくる。

たくさんのアヒルがバスタブに溜めた血の中に飛び込み次々と飛び出し、そこにハエが集まってくる。コスタは隼を飼っていて、その隼が蛇を捕まえ、ヘリコプターにぶつかる夢を見たりする。

コスタは愛する女性と結婚が迫っていて、その女の姉は軍隊から戻ってくる男と結婚を予定している。

どうやら戦争をしているようで、少し道を逸れるとコスタにも銃弾の雨が降り注ぐ。

やがて戦争は終わったようだがヘリコプターに乗った黒づくめの軍人がやってきて、村人を全て火炎放射器で焼き殺してしまう。なんとか逃げたコスタと恋人を執拗に軍人が追いかけてきて、終盤はこの逃避行がメインとなる。

二人は羊の群れに隠れるが、そばに地雷地帯があり、そこに羊を追いやり次々と羊が爆発する中二人は逃げる。しかし、最後の最後、恋人は地雷で死んでしまい、それから15年が経つ。

コスタは一人の、地雷地帯に石を敷き詰め、愛する女性を弔っていた。このラスト、俯瞰で大きく見せるエンディングが見事。

途中、彼らを助ける巨大な蛇や、隼が羽ばたくと突風が吹いて追っ手を阻んだり、相棒のロバが撃たれて死ぬエピソードなど書き出したらきりがないほど面白い映像表現が満載。

一体次は何が起こるのかとドキドキしながら、わかるようでわからないストーリー展開を追いかけて行くのですが、見終わるとなんとも言えないラブストーリーだったと気づかされる。これが映像作りの才能なのでしょう。見事でした。