くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「心中天網島」「復讐するは我にあり」

kurawan2017-09-18

心中天網島
何十年ぶりかで見直したが、やっぱり素晴らしかった。モノクロームのスタンダード画面いっぱいに筆で書かれた文字が取り囲み、格子を巧みに使った空間づくりと黒子を配した独特の舞台演出のような映像世界が展開。まさに篠田正浩監督の代表作と言える一本でした。

遊女小春にうつつを抜かしている紙問屋の治兵衛、小春には太兵衛という成金が見受けを狙っている。それほどな新台もない治兵衛は、なけなしの金で小春に通い続けているが、一人の侍風の男が小春の元にやってくる。そこに居合わせた治兵衛、その男に結わえられ、頭巾を取ればなんと兄である。

女郎屋に入り浸る弟を戒めるためにやって来たが、なんと小春は治兵衛などと死にたくはないという。まんまと騙されたと知った治兵衛はそのまま女郎屋を後にする。

家に帰れば愛妻おさんが待っている。岩下志麻の二役である。実は小春にああいったことを言わせたのはおさんだった。女遊びで金がなくなるのは構わないが、死んでしまうというのだけは耐えられないと女同士の懇願をしたのである。

一方小春は太兵衛に身請けされることが決まるが、小春の心情として死ぬのではないかと心配したおさんは有り金をはたいて治兵衛に持たせ、小春を身請けするように頼む。折しも実家の父がやって来て、おさんは無理やり離縁させられてしまう。

事の経緯を知り、逢引した小春と治兵衛は心中することを決め、二人で夜の大阪へ。そして墓場で体を合わせた後、治兵衛が小春を刺し、治兵衛は鳥居に帯をかけて首を吊る。

墓場でのラブシーンもすごいが、鳥居に首を吊るというラストシーンもすごい。もともと人形浄瑠璃なので、原案に則ったものなのか私にはわからないが、美しい構図を決めたカットの数々に最後まで引き込まれる作品です。まさに名作というものですね。


復讐するは我にあり
こちらも何十年ぶりかで見直したが、やはり見事な映画です。寸分の隙のない脚本と、間断を許さない緻密な演出、そして芸達者なキャストの競演が素晴らしい。名作というのはこうやって全てが揃った時に生まれるのでしょうね。今村昌平監督の代表作の一本。

主人公榎津巌がパトカーに乗せられ護送されていくシーンから映画が始まります。人を虫けらのように殺した男がとうとう捕まったのである。カットが変わると草むらで発見される死体、そしてトラックで殺された死体、さらにその殺される場面に遡り、そして榎津巌が逃亡をする足取りが映されていく。

その背後に巧みに挿入される父親の姿、妻の姿、しかも父はクリスチャンながら榎津の妻に心が揺れ、しかも知り合いに抱かせたやったりもする。母親はおざなりにするし、息子を罵倒する。

榎津はいく先々で巧みに詐欺や殺人を繰り返し、わずかな金を手に入れながら逃亡を続ける。そして、行きずりに近い女と関係を持つが、全国指名手配された写真が街のあちこちに目につくようになっていく。

そして、逃亡先で買った女に交番に駆け込まれ、とうとう捕まる。そして五年後、父親が榎津の遺骨を持って山の頂へ行く。そして榎津の妻と骨を撒こうとするが、骨が空中で止まってしまうのである。有名なラストシーン。

感動とかそういうものは今村昌平監督は描かない。人間の強欲、本質をグイグイとスクリーンからこちらに覆いかぶせてくるのである。その迫力にタジタジとなるが、やはりこれだけの映画を撮れる人はそういないとも思える。名作の貫禄とはこういうものである。