くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「僕のワンダフル・ライフ」「セザンヌと過ごした時間」

kurawan2017-09-29

僕のワンダフル・ライフ
今まで、こういう物語がなかったのが不思議なくらいですが、考えてみれば東洋的な宗教観なのかもしれませんね。飼い主に可愛がられた一匹の犬が転生を繰り返して元の飼い主のところに現れるというファンタジー。死んでも死んでも記憶が変わらないという矛盾などは関係なく、ストレートに展開する物語はそれなりに見ていて楽しい。監督はラッセ・ハルストレムですが、いつものような幻想的なシーンはなかったような気がします。

一匹の犬が二人の男に拾われ、トラックで連れ回されるが、車の中に置き去りにされる。暑さで死にかけたところに通りかかった少年イーサンと母親はその犬を助け出し、飼いはじめる。犬の名前をベイリーとする。

こうして、イーサンとベイリーの物語で幕を開け、やがてイーサンは高校生になりハンナという恋人ができる。イーサンとベイリーには得意な芸があり、空気の抜けたアメフトのボールをイーサンが投げ、イーサンの背中を台にベイリーが飛び上がってキャッチするというもの。これがラストの伏線になる。

ある時、一人の青年とのいざこざから家が火事になり、大怪我を負ったイーサンはハンナともうまくいかず別れる。そして一人農業大学に行くが、やがてベイリーは体調を崩し、イーサンに見守られ死んで行く。

ベイリーは警察犬となって生まれ変わる。優秀な警察犬となったイーサンは少女を誘拐した犯人を捕まえる際に拳銃で撃たれ死んでしまう。続いて黒人の女子大生に変われる犬となって蘇り、ここでも寿命がきて静かに死んで行く。続いて生まれ変わって飼われたのはいかにも適当そうなカップルで、男の方はベイリーを外で飼うように女に言いつけ、ずっと外で繋がれたまま成長して行く。

しかも、男は、大きくなって飼うことが負担になったベイリーを、遠くに捨ててしまうのである。しかし、捨てられた地を眺めたベイリーはあることに気がつく。なんと、かつてイーサンと過ごした平原なのである。

しかも、公園には今や中年となったハンナが犬を散歩させていた。ベイリーはイーサンが一人孤独に暮らす家を見つけ、一旦は追い返されるもイーサンも再びこの犬を飼うことにする。ベイリーはイーサンが寂しそうにしているのを見かね、ハンナのところへ行く。ハンナは突然現れた犬に戸惑うが、首輪に持ち主の名前を見つけ、イーサンのところにやってきてイーサンとハンナは再会。

やがて二人はよりを戻す。こうして寂しげだったイーサンはハンナと再会して活気を取り戻し、パーティを開いて賑やかな毎日になる。ベイリーはイーサンになんとか自分がベイリーであることを告げるために、納屋から昔遊んだボールを見つけ、イーサンの元へ。そして、かつて遊んだようにイーサンの体を台にして飛び上がりボールをキャッチ、イーサンはこの犬がベイリーの生まれ変わりだと知りハンナとともに抱きしめてハッピーエンドである。

原作があるとはいえ、どういう風に映画にするのか興味津々でしたが、丁寧に物語を紡いでいき、エピソードの流れも構成もうまくまとめて、いい映画に仕上げています。ちょっと物足りなくもないですが、犬好きにはたまらないでしょうね。そんな映画でした。


セザンヌと過ごした時間
画家のセザンヌエミール・ゾラの40年に渡る交友の物語を描いた人間ドラマで、それぞれの人生の中での名作の生まれた経緯とかに視点を一切おかず、二人の関係のみをしっかりとしたタッチで描いて行く。逆にいうと、たまたま二人がそれぞれに偉人に近い存在であっただけと言われればそれまでという物語ですが、その背景を知識として知っていればかなり深く見ることができる作品という感じでした。監督はダニエル・トンプソンです。

少年時代のセザンヌとゾラの絡みから、すぐに青年から大人になって、それなりの年齢になって、ゾラはパリで大成功し、一方のセザンヌは全く認められず、貧しい日々に陥ってからの物語がどちらかというと中心になる。

何かにつけて癇癪を起こし、一体、あれだけの名画をいつ描いたのかと思わせるほどに完成品は一枚も出てこない。一方のゾラは、つぎつぎと認められ、新作が発表されるが、実は追い込まれることに対する心の貧しさも感じている。

二人の姿を英雄視することなく真正面から捉えていき演出が実に好感で、しっかりとしたドラマ性を見せてくれるのが本当にいい。

ゾラは、ある画家、つまりセザンヌなのだが、彼をモチーフにした本を発表し、二人の関係はかすかに溝ができるものの、そこに大きなウェイトをおかず、ラストで、さらに順風満帆に成功し、地元名士達と食事をしているところに駆けつけたセザンヌの前で、「彼は天才だったが開花しなかった」というゾラをみて、寂しげに声もかけず去って行くセザンヌの姿で物語は終わる。

ゾラは、排気口の不良で謎の死を遂げ、セザンヌは肺炎で絵筆を握ったまま死んだというテロップが流れる。ご存知のようにセザンヌの偉業は晩年に彼の絵を買い付け、多方面に紹介したヴォラールという画商により日の目を浴びることになる。

こういう物語もあったのだということを知識として知ることができるという意味でも見る価値のある一本。いい映画でした。